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■北海道支部 第2回技術セミナー・レポート 平成15年6月13日
「自然再生の理念と方法」

講師:
北海道工業大学環境デザイン学科 教授 岡村俊邦

 めざましく発展する都市や社会経済の裏で、生態系は大きなインパクトを受けてきた。なかでも土木・建設工事による地形等の改変は、生態系に与える影響は相当なものであると考えられている。しかし、近年「自然再生推進法」が成立するなど、公共事業においても生態系や環境に対する意識と関心の高まりが感じられる。そのなかで、自然再生を目的とした技術は未だ発展途上であり、今後の技術確立が望まれるところである。
 今回ご講演いただいた岡村俊邦北海道工業大学教授は、“生態学的混播法”という自然林再生方法を提唱し、河畔沿いや工事跡地における自然林再生を実践している。豊かな生態系回復のためにも、多様性に富んだ自然林再生は急務である。岡村教授は自然林を含めた自然再生において重要なのは、第一に“理念”であり、日本人には“理念”がまだ足りないことを強調された。“理念”の基礎となる部分は自然再生における“理想像”の設定であり、この“理想像”と“現実”とのギャップを解決するように自然再生を進めていく必要がある。したがって、明確な“理想像”を持たずには現実における問題点が顕在化しないため、本当の自然再生は難しい。これらは自然再生において、きわめて重要なステップであるとして事業における実例も紹介していただき大変理解しやすかった。
 講演では、理念から具体的方法に至るまで詳しく説明された。岡村教授が行った環境教育のビデオ上映も併せて行われ、岡村教授指導のもと小学生が樹木のタネを採取している姿が映し出された。子どもたちが笑顔で自然に親しんでいる姿が大変印象的であった。この小学生たちが大人になる頃、採取した樹木のタネから育てた苗木が大きくなり、立派な森林が再生されるとのことである。数十年後、この土地に本来存在していたであろう豊かな森林が再生されること、そして再生された自然に親しむ次世代の子どもたちの楽しげな声が聞こえることを願わずにはいられなかった。
(レポーター:(株)セ・プラン 近藤 圭)

■関西支部 第1回研究集会・レポート 平成15年7月10日
「自然再生推進法と自然再生事業」

講師:
環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性企画官 上杉哲郎
「自然再生推進法制定の背景等について」

講師:
関西学院大学総合政策部 教授 久野 武

 今回の研究集会では、昨年12月に制定されたばかりの「自然再生推進法」について、法が制定されるまでの背景や、法に基づく事業の実施までの流れについて、大変わかりやすく解説していただいた。また、釧路湿原で実施されている「自然再生事業」については、もともと関心を持っていたこともあり、現在実施されている調査や実験の内容など、大変興味深い話を聞くことができた。
 ひと口に「釧路湿原の自然を再生する」といっても、流域全体で一挙に事業を展開するのは困難であるため、適切なゾーニングを行い、それぞれの地域の特性に応じたテーマを設けて事業を進めていくといった方針は、合理的でわかりやすい。いかに「適切なゾーニング」を行うか、ということが事業の成功を左右する非常に重要なファクターであるといえるが、そのためにはきめ細かい事前調査と多面的な視野に基づく現状把握を適切に行うことが必要である。釧路湿原の事業におけるゾーニングは、地域特性がうまく生かされており、それぞれの地域のテーマについても、一般の人々にもわかりやすく設定されていると思った。
 今回最も印象に残ったのは「自然再生」は「地域再生」であるという点である。実施者が地域に固有の生態系や自然環境を取り戻すことを目標として掲げても、地域住民の意識が低ければ合意形成を得るのは困難であろう。釧路湿原の自然再生は、先に挙げたように事業のテーマが一般の人々に理解されやすいということに加えて、自然に対する地域住民の意識が非常に高かったことが成功の要因と思われる。今後、自然再生事業を実施するにあたっては、いかに地域住民の意識を高めるのか、高めるためにはどうすれば良いのか、という点について考えていくことが重要であると思った。
(レポーター:(株)関西総合環境センター 樋口香代)

■九州支部 技術セミナー・レポート 平成15年8月8日
「自然再生推進法の施行に伴って」

講師:
環境省自然環境局九州地区自然保護事務所 所長 新井正久
「ハヤブサのミチゲーション成功事例について」

講師:
九州国際大学次世代システム研究所 所長 岡本久人
「希少な樹木とどこにでもいる樹木の意義
 〜自然再生推進法に関して〜」


講師:
北九州市立自然史・歴史博物館員 真鍋 徹
JEAS会員研究事例発表「出水平野のツルについて」

発表者:
(財)鹿児島県環境技術協会調査部環境生物課 専門員 塩谷克典

 今回の九州支部技術セミナーは、平成15年1月1日に施行された「自然再生推進法」の概要説明、釧路湿原保全の事例による環境省の取り組みについての講演に続き、外部講師による調査・研究事例2題の紹介と、JEAS会員による研究事例の発表が行なわれた。

◆「自然再生推進法の施行に伴って」
 自然再生推進法に基づく自然再生事業の実施では、とくに地域の発意による事業の実施が重要であることが強調された。また、事業者はその地域の自然再生事業活動に参加しようとする地域住民・NPO等に広く自然再生協議会への参加を呼びかける必要がある。自然再生事業としての釧路湿原再生プロジェクトは、再生事業経験が少ないわが国で一番進んでいるものであり、自然再生事業の「釧路方式」と呼ばれている。
 釧路湿原再生事業の詳細な紹介により、自然環境が損なわれた地域において「自然環境を取り戻す行為」が、いかに地道な努力と莫大な時間・費用がかかる大変なものであるかを痛感させられた。
◆「ハヤブサのミチゲーション成功事例について」
 ハヤブサは環境省レッドデータブック絶滅危惧(b)類に指定されており、イヌワシやクマタカなどと同じ猛禽類である。猛禽類が生息できる環境は一般的には健全であり、猛禽類が繁殖できる環境が維持されていることは誇るべきことである。
 平成11年5月、北九州市門司区の土地造成にかかわる動植物調査でハヤブサが確認されたため、ハヤブサ繁殖地のミチゲーション技術の研究を行うことになり、北九州市、土地区画整理組合、地権者、砕石業者などの理解と協力を得て実施された。
 平成12年12月に北九州市門司区(企救半島)の断崖(砕石採掘残壁部)3カ所に人工巣場を完成させ、平成14年に二つの巣場にハヤブサが定着、人工巣場への誘導に成功し、一つの巣場で4羽の巣立ちを迎えた。
 人工巣をつくるには、「自分がハヤブサだったらどういう巣をつくるかを考えること、そして子育てなどの条件を考えて巣をつくればよい」との説明があり、業務においても自然環境・社会環境等の環境問題諸対応で相手の立場になって行動する必要性を再認識することができた。
(レポーター:西日本技術開発(株)井上 亨)

◆「希少な樹木とどこにでもいる樹木の意義」
 生態系は、非生物的な環境と生物群集から構成され、物質循環やエネルギー流がからみ合った複雑なシステムである。生態系の構造を明らかにし理解することは、人が自然と共生していくために欠かせない。この報告では、希少な樹木ヒトツバタゴ、どこにでもいる樹木ヒサカキに着目し、希少な樹木の個体維持には、競合種との関係や林床条件が重要な意味を持っていることが説明された。また、ある照葉樹天然林において、どこにでもいる樹木が、天然林の植生維持に重要な役割を果たす鳥類に、餌場としての機能を供給していることを明らかにした調査手法、結果が報告された。
◆「出水平野のツルについて」
 人と自然との共生という視点でみた場合、自然の保護・保全・再生を行うには、地域住民の生活にも配慮すべき点が多い。『出水平野のツルについて』の研究事例発表では、ツル保護のあり方を考えるために実施した人工給餌、利用環境、病害生物等についての調査手法、結果が紹介された。出水平野は、ツルの越冬に不可欠であり、また重要な観光資源である一方、農作物に被害を与えるなど、自然保護、管理を行っていくうえでの問題も多い。
 人と自然との共生に取り組むうえで必要な「自然を知ること」については、あらゆる切り口からのアプローチが大切である。今回の報告にあった調査手法や結果は、一つ一つは地道なものであるが、これらの情報がわれわれに共有されることによって積み重ねられ、生態系構造のモデル化など、生態系構造解析の糸口をみいだすことにつながっていくものと感じた。これからも技術セミナー等で情報が公開、共有されることに期待したい。
(レポーター:(財)九州環境管理協会 高崎剛広)

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