活動報告

支部報告 104

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■北海道支部 第1回技術セミナー・レポート 平成16年6月18日
「札幌市の環境行政」

講師:札幌市 環境局長 高橋徹男

 札幌市における自然環境の変遷、とくに水環境に対する高橋局長の思いや札幌市の現状と取り組みをご講演いただいた。
 豊平川は、緑豊かなバックグラウンドを有し、その扇状地に人口約180万人の札幌市が形成されている。そのため、札幌市は緑豊かな都市というイメージを受けがちであるが、現在市街地に残された緑は僅かであり、しかも年々減少傾向にある。また、高橋局長の幼少時代にはメムと呼ばれる池があったが、戦後30年で次々とメムが消えていったという。メムとは、地下に浸透した伏流水が地表に湧き出す場所で、かつての札幌市には数多く見られたが、都市化による雨水の地下浸透量の減少や地下水揚水の影響により地下水位が低下し、扇状地末端部のメムは失われてしまったといわれている。
 札幌市の水道水源の多くはこの豊平川で、取水した水は生活用水として利用した後に豊平川のほか、別の水系である茨戸川と新川に戻しているという。これは、ほかの都市に見られない方法で、この取り組みにより河川の流量にどの程度の影響があるのか非常に興味深いお話であった。
 このような背景から、札幌市では水環境を保全するため、長期的視野も含めた水環境保全計画を実施し、水量(上流域の河川、中・下流域の河川、地下水)、水質(水道水源、河川、地下水)に生態系を加えるなどの具体的な目標設定を行っている。また、生活の豊かさを求める人々に、自然に対する考え方を変えてもらう取り組みが必要と考え、まずは幅広い年齢層が楽しめる親水空間を創出し、興味を自然に向けることを目指しているそうだ。近年、北大構内を源とするサクシュコトニ川の再生計画が、札幌市と大学、開発局の連携で実現するなど札幌市の環境行政の積極性は目を見張るものがある。札幌市の環境行政は、札幌市を自然と共生する水の都として生まれ変える可能性を秘めており、未来へ継続的につなげ、発展させていってほしいと思う。
(レポーター:(株)地域環境計画 中島正雄)


■北海道支部 第1回技術セミナー・レポート 平成16年6月18日
「窒素汚染・紫外線と魚の遺伝子」

講師:北海道立水産孵化場 病理環境部長 坂井勝信

 河川環境と魚類生態に関する研究のうち、生息場所の物理環境特性と魚類の関係は、国内外で多くの報告事例があるものの、河川に流れ込む物質による魚類への影響については報告例が少ない。本セミナーでは、北海道の河川を中心に河川に流れ込む窒素、紫外線が魚類生態に及ぼす影響について、長年研究に携わってこられた坂井勝信氏をお招きし、現状における問題および今後の保全対策について考える機会をいただいた。
 淡水域における魚類の大量死の原因としては、1) 伝染病の流行、2) 溶存酸素量の低下、3) 水域への化学物質流入が考えられている。最近話題になっているものでは、コイヘルペス伝染病、プランクトンの大量発生(赤潮)にともなう酸欠、ゴルフ場などの農薬流出、トンネル工事などのコンクリート排水などがあげられ、いずれも人為的な影響が大きいものと考えられる。とくに、農耕地から流出する農薬などに含まれる窒素化合物による汚染は、酪農・耕作地が隣接する河川が多く分布する北海道にとって大きな問題であり、早急な保全対策の実施が望まれる。
 紫外線による魚類への影響として、魚類に紫外線を照射させた場合、強度が大きくなるにつれて異性化(成魚の性ホルモンの比率変化)が起こることが紹介された。また、冬季に道路の融雪剤として使用されている塩化ナトリウムが混入した場合、異性化が促進されることから、サケ科などの魚卵への影響も推察された。現在、北海道では冬季の排雪施設として多くの河川敷が利用されていることから、それによる影響の増大が懸念される。
 以上のように、河川流入物質は淡水域に生息する魚類にとって、重要な生息環境要因のひとつであることが紹介された。今後は河川環境の整備において、自然河道の復元のほかに、汚染物質の流出防止・良好な水質環境の保全についても考えていく必要があると認識させられるセミナーとなった。
(レポーター:(株)ドーコン 三沢勝也)


■中部支部 第1回技術セミナー・レポート 平成16年7月12日
環境特別セミナー「環境行政の信頼向上を目指して」

「環境アセスメントの向上を目指して」
 講師:環境省総合環境政策局 環境影響評価課長 梶原成元
「計画的総合評価とパブリックインボルブメント」
 講師:国土交通省中部地方整備局 道路部長 桐越 信
「環境先進県を目指した取り組みについて」
 講師:愛知県環境部環境政策課 主幹 吉田精宏

 今回の環境特別セミナーは、JEASの会員だけでなく、環境行政に携わる方々も加わり、参加者数約200名の大規模なものとなった。
 梶原講師の語り口は熱かった。環境影響評価法の理念と制度改革が、法の完全施行後5年を経て、どうなったか、課題は何であるか。さらに、話題はSEA(戦略的環境影響評価)に及んだ。環境影響評価の四つの課題、1) 方法書手続きの活用、2) 環境保全措置、3) コミュニケーションの確保、4) 基盤整備:情報の体系的整備と提供について、法の趣旨と現状とのずれを、わかりやすく具体的に指摘された。
 「標準項目、手法にとらわれない。なぜその項目を調べようとするかのストーリーが必要。評価は保全措置についての事業者の見解を述べる」
 「アセス法によって、環境省は変わったつもりでいる。しかし、行政担当者、事業者、コンサルタント、市民はまだ『?』がつく部分もあるのではないか。いまだに、アセスとは何かが徹底されず、アセス図書の内容が変わっていない要因の一つであろう」
 もっともな指摘である。私たちアセスにかかわる技術者は、一度、原点に戻って、環境影響評価のあり方を考えてみる必要がある。
 桐越講師の市民参画型道路計画プロセスにおける計画的総合評価の紹介は、道路計画の構想段階で、環境面のみならずより広範な検討を、市民参加(PI)で行うという画期的な取り組みである。これまでの道路計画プロセスでは、構想の検討段階では世の中に明らかにされず、ある日突然、都市計画手続きで計画が公開される。そこで初めて事業の必要性、地域的利害調整、環境に関する問題など、さまざまなことが同時に議論されるため、混乱が起きて、ものごとが進みにくくなっていた。だから、構想段階から市民参加をやるのだという。ものごとが決まっていないから、環境のみならず、いろんなことを取り上げて検討する。以前にはまったく考えもよらなかった、公共事業の計画の流れである。講演では、道路をつくることによって、より交通量が増加する“誘発交通量”についての技術的考察も紹介された。大変濃い中身を、どんと伝えられた講演であった。
 古田講師は、環境先進県づくりに向けた、愛知県の取り組みを紹介された。自動車をはじめとするものづくり県での、環境をテーマとする万博「愛・地球博」の開催をまぢかに控えた愛知県は、環境に自信と誇りを持てる地域づくりを目指している。「あいち新世紀自動車環境戦略」「あいち地球温暖化防止戦略」など、これまでの取り組み、これからの取り組みの概要が示された。地域づくりは人づくり。すばらしい郷土を次世代に引き継ぐための努力は惜しんではならないと、子どもたちへの取り組みにも力が注がれており、来年7月には、愛知県で世界の子どもたちが環境について考える「子ども環境サミット」が開催される。ポスト万博、環境と経済(ものづくり)との結合・好循環をめざす、愛知県のこれからの環境施策に注目したい。
 よりよい社会をつくりあげるための知恵・経験の一部を体系化したものが、環境アセスメントや計画的総合評価の手続きで、これらは貴重なソフト的社会資本であるといえる。私たちは、環境アセスメント制度を支えるため、調査・予測・評価に必要な技術を磨いてきたが、プロ集団向けの技術の向上に特化しすぎたきらいはないだろうか。もっと、人と社会との関係を自覚して、自ら気づき自己変革を行っていかなければ、良質な社会資本の形成には寄与ができず、ひいては、自分たちの明日の仕事がなくなってしまうかもしれないと考えさせられる貴重な講演であった。
(レポーター:玉野総合コンサルタント(株) 西本テツオ)

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