活動報告

支部報告 121

<<< BACK
 

■ 北海道支部 技術セミナー・レポート 平成20年9月5日
「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」の実務参考
講師:
環境省総合環境政策局環境影響評価課 課長補佐 小岩真之


 「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」(SEAガイドライン)は、事業に先立つ早い段階で、著しい環境影響を把握し、複数案の環境的側面の比較評価および環境配慮事項の整理を行い、計画の検討に反映させることにより、事業の実施による重大な環境影響の回避または低減を図ることを目的とし、平成19年4月に公表された。
 SEAは、環境影響評価(EIA)のような網羅的で詳細な調査・予測評価を行うものではなく、環境影響評価法に規定されている第一種事業を中心とした事業の上位計画のうち、位置や規模等の検討段階における適切な環境配慮を行うためのツールである。
 本講演では、SEAの実務を進めるにあたり、特に着目すべき基本的な考え方やSEAの各段階における着眼点について、ガイドラインをもとに解説された。EIAでは、事業による環境影響を詳細に把握するためさまざまな調査および予測・評価を行うのに対し、SEAでは上位計画段階における複数の案について、環境影響の程度をそれぞれの長所や短所、留意すべき環境配慮事項等を比較検討する。この際、自治体、一般市民や専門家からの意見やアドバイスが重要である。SEAを実施することにより、事業の透明性の向上や計画変更等が可能となり、結果的に重大な環境影響の回避または低減につながる。このようなメリットがあるSEAであるが、一方で、(1)事業者との情報共有体制の整備、(2)公開用フォームの作成、(3)自治体の各部署間の役割のなかでの情報提供・共有、(4)猛禽類や希少植物等の基礎調査データの不足、等の課題も浮き彫りになっている。
 SEAを円滑に行うためには、認知度が低いという現状を踏まえた「普及啓発活動」、「情報の共有・チェック機能の確立」、「共有すべき情報の蓄積とそのデータの更新」等の取り組みについて早急に検討されることが望まれる。
(レポーター:(株)エコニクス 多田憲司)


■北海道支部 技術セミナー・レポート 平成20年9月5日
地球温暖化と北海道農林畜産業のゆくえ

講師:
北海道大学大学院農学研究院 教授 大崎 満

 今回の講演でまず提示されたのが、「地球環境におけるトリレンマ構造」である。「人間」、「環境」、「資源」の3要素は互いに相反する部分があり、人間生活の向上を追い求めた結果、資源は枯渇し、環境は悪化してきたのである。そこで持ち出されたのが「サステイナビリティ学」であり、これは日本の「21世紀環境立国戦略」において、「持続可能な社会」を実現するための中核となるものである
 一方、異常気象や災害が頻発する現在の状況のなか、これまで伸び続けてきた世界の農業生産量が2004年をピークに頭打ちとなった。これは、世界の農業生産能力がすでに限界に近づいている可能性を示している。
 21世紀の農業は、これまでの化石燃料、大型機械、化学肥料を用いた、単作による過剰生産分を輸出に回すかたちから、生産量の頭打ちやバイオ燃料の普及により、生産物が国内で消費されるかたちへ移行していくと考えられ、日本にはこれまでのようにさまざまな農産物が豊かに入ってくる状況ではなくなる可能性が高い。
 このような状況のなか、今後の北海道農林畜産業はどうあるべきか。これまでの大型機械を導入しての大規模経営には限界が見えていることから、高付加価値の農産物を小規模に生産していくこともやり方のひとつである。また、バイオ燃料などに代表される再生可能エネルギーは、一定の地域のなかでコンパクトに再生利用されるシステムを構築することが望ましい。これまでの効率優先の農業形態とは大きく異なる要素が多くあると思われるが、持続可能な社会の実現のためには必要なことであり、これまで以上に広く啓発しなくてはならないと思う。
 これらの実現には政策による後押しが必須である。理論上、食料やエネルギーの国内自給は可能であるとのことであり、北海道の農業の仕組みを根本からつくり変えることを考えなければならないときが来ていると感じた。
(レポーター:北電総合設計(株) 洞井賢二)


■関西支部 第1回技術セミナー・レポート 平成20年9月11日
戦略的環境アセスメント 実務と事例
京都市における戦略的環境アセスメント制度と事例紹介
講師 京都市環境局環境企画部環境管理課 課長 五十嵐邦夫

「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」の実務参考
講師 環境省総合環境政策局環境影響評価課 課長補佐 小岩真之

 平成19年4月に環境省より「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」(SEAガイドライン)が公表され、平成20年4月には国土交通省が「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」を公表するなど、公共事業に関するSEAへの動きが活発化している。
 このような状況を踏まえ、関西支部では、テーマ「戦略的環境アセスメント実務と事例」と題して、環境省および京都市においてSEAを直接担当されている講師をお招きして第1回技術セミナーを開催した。
 今回は、参加者(JEAS会員および関係行政担当者)にとっては動向がたいへん気になるテーマであったこともあり、参加総数は約140名、うち43名が行政担当者等の参加であった。

<京都市のSEA制度>

 京都市では、平成16年10月1日より「京都市計画段階環境影響評価要綱」が施行されている。政令指定都市のSEAの制度化は、京都市の取り組みがはじめてであり、他都市(4自治体)に先駆けたものである。
 本制度の原則は、(1)早い段階での環境配慮の実施、(2)環境への配慮結果の意志決定への反映、(3)情報の提供および市民参加手続き、(4)第三者の関与による客観性等の確保、(5)複数案の比較による評価の実施が掲げられている。
 計画対象は、「京都市環境影響等に関する条例」の対象事業に係る計画(第1種計画)だけでなく、小規模な事業であって一定の要件を満たす計画(第2種計画)、さらに、より上位の計画として「河川整備計画」「一般廃棄物処理基本計画」(第3種計画)が含まれ、現在11件の第2種計画に関するSEAが実施されている。

<京都市のSEA事例紹介>

 廃棄物の埋立事業終了にともない南部地域の新たな拠点として整備するための計画「『水垂地区における基盤整備のための構想』を推進する運動公園の整備基本計画」に関するSEAの取り組みについて紹介があった。
 その際、土木・建築担当者から出てきた複数案は、建屋の配置を変えたり、高さを変えたりした案が提示されるケースが少なくなく、環境保全上、回避できるか否かという視点で案を作ることに苦労されたそうである。
 さらに将来的には、指標ごとにその評価の価値に関する重みづけが必要であるとの課題提起もあった。

<SEAガイドラインの実務のために>

 地方公共団体担当者(環境部局)の適切かつ円滑なSEA実務に関して、ご講演いただいた。そのなかで、以下の2点が印象に残った。
計画諸元が詳細に決まっていない段階で行う手続きであることから、早い段階からより広範な環境配慮を行うというSEAの評価の目的を満たす範囲で、事業の熟度に応じた手法を用いれば足りる点に十分配意して取り組みを進める必要がある。
複数案の比較評価は、個別案ごとに環境面から見た長所、短所、特に留意すべき環境影響の内容および環境配慮事項を整理するものであり、環境面での有意差をことさら強調したり、環境にもっとも望ましい案を明確に提示したりすることはない。

<感想>

 参加者のSEAの動向に対する関心は高く、講演終了後の質疑応答も活発であった。ひとつのセミナーで、国のSEAガイドラインの内容および運用方法、さらにガイドラインを踏まえ、自治体で制度としてSEAを実施している事例までを知ることができたことは、たいへん有意義であった。
(レポーター:(株)環境総合テクノス 藤井義之)


■中部支部 野外セミナー・レポート 平成20年10月9日
青山高原風力発電施設等見学会

 今回のセミナーでは、温暖化問題のなかで注目を集める風力発電施設と、その対極の存在ともいえる火力発電所を見学した。風力発電施設としては、本州最大の青山高原風力発電施設を対象としたが、ここでは現在32基が稼動しており、さらに隣接地区の19基について環境アセスメントが終了している。一方、火力発電所としては、世界最大級の川越火力発電所が対象である。
 名古屋駅からバスで青山高原へ。高速を降り暫くすると、稜線に数基の風車が目に入る。風力発電は、一般に景観への影響が問題点としてあげられているが、稜線に並ぶ姿は鉄塔を見慣れている日本人にとってそれほど違和感があるとは思えない。現地では、既存施設設置時の環境配慮や隣接地区のアセスを担当された(株)シーテックの方にご説明いただく。印象深かったのは、既存施設に対し公園法第3種特別地域の適用除外がなされた際、県民の75%が建設に賛成されたことであった。このノンカーボン電力への期待を示す数字は、裏返せば地球温暖化に対する脅威が市民に浸透しているものであろう。なお、生物の仕事に携わる者としてバードストライク問題に興味があったが、現時点の情報はなく、事後調査結果を待たねばならないとのことであった。
 見学を終え、青山高原を後にバスで川越発電所へ向かう。ここでは、発電所副所長の方からご説明をいただく。この発電所では、LNGを利用した最新の発電方式により飛躍的に熱効率を高めるとともに、燃料の不純物を取り除き、環境への負荷を軽減されているとのことであった。
 クリーンエネルギーとして注目を集める風力発電施設と、安定した電力を供給することにより現代社会を支えている火力発電所を見学し、各々の技術が、それぞれの役割分担において進歩することにより、地球環境問題の解決の糸口がつかめるのではないかとの期待を抱かせるものであった。
(レポーター:日本工営(株) 岩城安英)


■関西支部 野外セミナー・レポート 平成20年10月16日・17日
芦生の森から環境を考える

<第1日目>

 セミナー初日、京都府南丹市美山町でかやぶき建築の集落が立ち並ぶ「かやぶきの里」ののどかな人里を経て、今回のセミナーの見学先である芦生の森(京都大学芦生研究林)に到着した。ここで、京都大学名誉教授の渡辺弘之先生にご案内いただきながら林間コースを歩き、芦生研究林を見学した。
 芦生の森は美山町を流れる由良川の源流に位置しており、北側は福井県に接し、東側は滋賀県に接している。近畿地方においては貴重なブナの天然林が残されており、ほぼ長方形、約4,200haの面積を有している。かつては、関西電力のダム建設計画により、ダム建設誘致の地元と自然保護との軋轢の狭間でその存亡が揺れ動いた時代もあったとのことであった。
 芦生研究林の林間コースは、天候が非常に良かったこともあり、爽やかで清々しいトレッキングであった。芦生の森の植生は、大きく日本海側気候の影響を受けて日本海型植生を示す一方で、太平洋側に主として分布する植物も混生しているとのことであった。近年は、シカの増加にともない、林内の食害による被害の拡大が甚大であり、かつては林床に藪を形成していたチシマザサがなくなり、遠くまで見通しのきく開放的な景観に変化してしまい、ハイイヌガヤという植物に至っては激減してしまっているとのことであった。林間コースを歩きつつ、林床植生が貧弱で開放的な林内の様子と、シカの食害による影響の実態を実感した。

<第2日目>

 セミナー2日目は、南丹市八木バイオエコロジーセンターを訪れ、有機性廃棄物有効利用の現場を見学した。南丹市八木バイオエコロジーセンターは、自治体として日本では初めて家畜ふん尿によるバイオマス発電を導入した施設である。周辺の家畜農家で発生するふん尿や、食品工場からの食品廃棄物(おから)を回収し、これらをメタン発酵させることで「バイオガス」を発生させ、これを用いて発電を行っている。バイオエコロジーセンターで消費される電力はすべてこの発電で賄われており、同時に発生する排熱は、施設の加温や管理室の暖房・給湯に利用されている。さらに、メタン発酵の処理後に排出される消化液は、これに含まれる固形分と液体とに分離され、固形分は堆肥として、液体については液肥としてそれぞれ精製され、周辺の農地に安価で利用されている。
 ただ、施設運営に関する課題もあり、バイオエコロジーセンターでは、周辺からの家畜ふん尿の供給に対応するため、施設の機器は昼夜休みなく稼働することを余儀なくされ、その稼働状況は当センターの処理能力を最大限に利用し続けるという状態が続いている。そのため、燃料費や薬品代、機器のメンテナンスにかかる経費がかさみ、このことが施設の経営を圧迫する現状にあるとのことであった。また、昨今の穀物高騰のあおりを受け、メタン発酵に必要な食品廃棄物の「おから」は家畜の飼料として家畜農家からの需要が高まり、その影響でバイオエコロジーセンターに回収される量がほぼ半減し、発酵の効率が悪化するという状況が生じてきているとのことであった。
 当施設の見学をとおして、リサイクルの実態と運営の難しさを実感した。
(レポーター:日本工営(株) 宮下和之)


■中部支部 技術セミナー・レポート 平成20年10月29日
愛知県における計画段階の環境配慮に係る事例について
講師 愛知県環境部環境活動推進課長 伊藤 隆

「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」の実務参考
講師 環境省総合環境政策局環境影響評価課 課長補佐 小岩真之

戦略的環境アセスメントの現状と今後の方向
講師 福岡大学法学部 教授 浅野直人

◆愛知県における計画段階の環境配慮に係る事例について

 愛知県では、年3件程度の事業アセス(EIA)が行われており、伊勢湾・三河湾に接していることを反映して、臨海部の埋め立てに関する件数が比較的多いことが特徴であるとの説明があり、EIAの具体的な事例として、中部国際空港と愛知万博を取り上げ、それぞれの事業の経緯が紹介された。このなかで、中部国際空港では、航空機騒音に関する地元の不安が大きく、この点について十分な説明を行ったことや、愛知万博では、オオタカの生息に配慮し会場予定地を変更したことなどが紹介された。
 また、戦略的環境アセスメント(SEA)における地方公共団体の役割のひとつとして環境情報の提供があるが、愛知県では昭和42年度から鳥類生息調査を実施しているほか、「レッドデータブックあいち」や「里山生態系保全の考え方」、「湿地・湿原生態系保全の考え方」などの公表、県土生態系ネットワーク形成方針の策定など、独自の取り組みを行っていることが紹介された。

◆「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」の実務参考

 本講演では、平成19年4月に公表された「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」に基づいて、SEAの手順や各段階における着眼点、EIAとの相違点について説明が行われた。このなかでは、SEAを進めるうえでの重要なポイントとして、SEAガイドラインは標準的な実施プロセスを示したものであり、対象計画や事業の特性等に応じて柔軟に対応すること、地域の環境情報や環境に関する固有の価値観、将来像について、早い段階から事業の計画策定者等と担当部局の間で情報交換を行うことがあげられた。
 本講演の内容や配布資料は、地方公共団体の環境部局の実務担当者を対象としたものであったが、事業者側あるいはコンサルタントの担当者にとっても非常に有益であった。

◆戦略的環境アセスメントの現状と今後の方向

 本講演では、アセスメントの理念やあるべき姿、法制度の歴史や内容等について講演が行われた。
 まず、アセスメントの目的は、持続可能な社会を形成するために、環境負荷の低減(=環境の保全)を行うことであり、EIAやSEAはそのための意志決定を支援するシステムとして機能することが必要であると述べられた。
 SEAに関しては、そのシステムの特徴について解説が行われた。たとえば、SEAの特徴のひとつである複数案の検討については、それぞれの案が実現可能であることや環境配慮面での相違があることが要件であり、複数案の設定が現実的でない場合にはこだわる必要がないこと、ゼロオプション(事業を行わない案)についても、現実的であり他の代替手段が存在する場合には検討対象とし、それ以外の場合は、ゼロオプションでは現況が悪化する場合に評価の参考として検討するべきであると述べられた。また、今後の課題として、個別のガイドラインの策定の促進やそのための予測・評価手法についての技術的な支援、パブリック・インボルブメント(PI)とのすみ分け、より上位の計画に係るSEAシステムの導入などがあげられた。
 アセスメントの実務に携わる場合、とかくマニュアル的に手続きを進めがちであるが、アセスメントを行う本来の目的とその重要性を改めて認識させられた講演であった。
(レポーター:いであ(株) 北岡洋尚)



TOPに戻る