活動報告

支部報告 122
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■中国支部 技術セミナー・レポート 平成21年4月27日
「生物多様性と環境配慮について」
基調講演「生物多様性と戦略的環境アセスメント」

講師:
東京工業大学大学院総合理工学研究科教授 原科幸彦
パネルディスカッション「生物多様性と環境配慮について」
パネリスト:
財団法人世界自然保護基金ジャパン自然保護室次長 草刈秀紀
東京大学大学院総合文化研究科助教 清野聡子
名古屋大学エコトピア科学研究所教授 林希一郎

コーディネーター: 中日新聞論説委員 飯尾 歩

講演「生物多様性と第10回締約国会議(COP10)について」

講師:
愛知県顧問(環境担当) 林清比古


 今回の技術セミナーでは、生物多様性を題材として2テーマの講演及びパネルディスカッションが行われた。当日は126名が出席して会場は満員となり、生物多様性に関する関心の高さがうかがえた。

●基調講演:生物多様性と戦略的環境アセスメント

  はじめに、持続可能な社会には環境・経済・社会の3つの側面があり、環境の持続可能性を考慮した経済を構築することで持続可能な社会が形成されるのであり、環境をベースとしてさまざまな計画を考えることが重要であると述べられた。また、東京とニューヨークの都心部から郊外にかけての土地利用の違いを例に、生物多様性の維持にはグリーンベルトなど広域の土地利用計画が重要であると述べられた。
  次に、日本における環境政策は規制行政から計画行政に変化してきており、環境における計画としてはハードウエア(都市構造、土地利用)・ソフトウエア(社会システム、規制)・ハートウエア(環境意識、環境倫理)の3つの領域があること、計画の策定と実行のプロセスに公衆が参加する場があり、公共の空間で議論することが重要であること、そしてアセスメントが正しく機能することで公共空間での議論が実現すると述べられた。
  また、生物多様性基本法に予防的な取り組みや事業の計画立案段階からの環境影響評価が明記された点をあげ、藤前干潟や愛知万博を例に、事業の実施直前に行われる現在の環境アセスメントでは十分な環境配慮や対策ができない等の問題があり、計画や政策といった戦略的な段階での配慮、つまり戦略的環境アセスメントの実施が必要であると指摘された。
  最後に、持続可能な社会を構築するためには環境をベースに考えることが重要であり、生物多様性の確保は持続可能な環境づくりの基礎であると述べられた。

 本講演では、当協会がとりまとめた「戦略的環境アセスメント実務ガイド」についての紹介があった。実務ガイドは、当協会が設置した「SEA推進特別委員会」の2つのワーキンググループ(WG)により、平成19年6月から約1年間をかけて検討、とりまとめられたものであり、技術的側面と制度・運用の2つの側面から構成されている。

●パネルディスカッション
 パネルディスカッションでは、はじめに各パネリストによる講演が行われた。
【草刈秀紀氏】

 草刈氏からは、生物多様性条約の位置づけ(気候変動や生物多様性に関する枠組み条約)や内容、生物多様性が危機に陥っている原因、生物多様性基本法を含めた日本の環境法体系、COP9の様子やCOP10に向けての動きなどについて解説が行われたほか、COP10に市民の立場から参画するため、生物多様性条約市民ネットワークが発足したことが紹介された。この中で、生物多様性には「種内(遺伝子)の多様性」、「種(種間)の多様性」、「生態系の多様性」に加え、「文化の多様性」の側面があると述べられたほか、地球を人体に例え、地球温暖化問題は肺炎や肺ガン、生物多様性の危機は内臓疾患に相当するとし、仮に温暖化の問題が克服されても生物多様性の危機に手を打たなければ、やがて地球は衰えてしまうと指摘された。
 また最後に、2002年のCOP6で採択された2010年目標(締約国は現在の生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる)に対し、ポスト2010年目標では具体的な数値目標が含まれる可能性があり、事業アセス(EIA)や戦略アセス(SEA)の評価結果が数値化できれば、ポスト2010年目標に貢献できるのではないかと提言された。
【清野聡子氏】
 清野氏からは、地球規模のスケールの問題を地域規模のスケールと結び付け、身近なものとして捉えることが重要であると述べられ、生態系サービス(自然の恵み)の減少の例として、護岸工事などで砂浜が減少した結果、釣りなどのレジャーができなくなった事例が紹介された。また、表浜海岸での取り組みや矢作川における水資源管理、庄内川の水質改善を取り上げ、地域住民の意識や参加の重要性を指摘された。
 COP10の開催に関連しては、市民団体などは積極的に活動しているが、専門家や技術者の動きが少ないことから、協会や学会がもっとかかわっていくことが大事であると述べられた。
【林希一郎氏】
 林氏からは、環境アセスメントにおける生物多様性の問題に対する海外の取り組み状況について講演が行われた。
 講演では、アメリカでの森林を対象としたアセスメントにおける代替案について取り上げ、保全エリア設定方法や伐採、レクリエーション活動による影響などを踏まえて代替案の検討が行われ、種の保全や生態系に配慮した保全、保全面積の拡大、自然環境の復元などが代替案となる傾向があると解説された。また代償ミチゲーションに関して、アメリカやオーストラリアなど約30か国で、予め代償地を造っておく、あるいは代償地として利用して良い土地を登録し、 その権利を売買することが行われており市場化していることなどが紹介された。
 生物多様性については、その経済価値の評価が政策的に重要となってきていること、欧米ではすでに市場化の動きが始まっており、欧米的価値観に基づいて国際ルールが決まっていく可能性があることを指摘し、その動きに日本も対応していく必要があると述べられた。
【パネルディスカッション】
 パネルディスカッションでは、生物多様性の評価のためにはまず情報を収集していくことが必要であること、COP10に向けた表面的な動向だけでなくその背景の動向(たとえば数値目標の設定にかかわる動向など)にも注目する必要があることなどの意見が出されたほか、さまざまな会議や活動に技術者や専門家が参加することの重要性が指摘された。

●基調講演:生物多様性と第10回締約国会議(COP10)について
 本講演では、生物多様性やその現状、生物多様性条約の内容、COP9の開催状況についての説明が行われた。また、2010年のCOP10に向けて支援実行委員会が組織されており、会議の開催にあたっては安心・安全の確保や快適なサービスの提供など万全の体制で支援を行うこと、歓迎行事や国内外のメディアを通じて愛知・名古屋の魅力を広く発信すること、会議に関連するさまざまな行事・会議の開催・支援を行うことなどが紹介された。また、会議に関連した事業や活動に対する企業や団体等の積極的な参加・協力を呼びかけた。

セミナー会場
セミナー会場.
パネルディスカッション
パネルディスカッション.
(レポーター:いであ(株) 北岡洋尚)

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