活動報告


支部報告 89

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■関西支部 第1回関西研究集会レポート 平成12年8月25日
「国道43号騒音の歴史と新環境基準」

講師:兵庫県立公害研究所 主任研究員 住友聰一
 国道43号は、1963年以来阪神間の大動脈としての機能を果たしてきた自動車専用道路であり、交通量も年々増加して、1990年には約11万台に達している。当時の当該沿線における騒音レベルは80dBを超え、旧環境基準はもちろん、旧要請限度も超える状況を呈し、沿道住民からは強く環境改善を求められてきた。その対策として、従来から車線制限、緩衝緑地帯の設置、沿道バッファビルの建設などの措置が講じられたが、震災後の復旧工事に関連して、現状では最高水準といわれている排水性舗装、遮音壁等新しい道路構造対策が施工されたとのことである。
 並行して1976年には道路公害裁判が起こされ、1995年に最高裁判決として「敷地におけるLAeqが65dB以上であるならば距離の遠近にかかわらず、距離が道路端から20m以内はLAeqが60dBを超えるならば、道路からの騒音が受忍限度を超える」という裁定が下された。その後、国は、道路環境対策を早急に進めるとともに、騒音の評価法(LAeq)についても鋭意検討し、環境基準改正への弾みとなった。
 1998年、新環境基準が公布され、測定評価法が改正された。翌99年、新しい道路構造対策が施工されて後、沿道環境の騒音調査が実施されたが、その結果は遮音壁背後での点的評価では新環境基準をクリアできるものの、面的評価では難しいといわれている。
 交通騒音対策としては、自動車騒音対策、道路構造対策、交通流対策、沿道環境整備対策等が考えられるが、今日に至るまでこれらの施策が繰り返し実施されてきたことを考えると、今後はよほど思い切った交通量削減などの交通流対策か、沿道環境整備等による土地利用の施策を強力に進めてゆく必要があると考える。
 今回の講演「国道43号騒音の歴史と新環境基準」の講師、住友先生は、兵庫県43号騒音対策委員会委員として、活躍されてきた先生であり、お話しされた過去の事例は、私たち環境調査に携わる者にとっては今後の調査業務に非常に役立つものであり、この研修会に参加できたことは有意義であった。

(レポーター:環境計測(株) 西村庄司)

■関西支部 第1回関西研究集会レポート 平成12年8月25日
「大気中微小粒子の性状と計測の課題」

講師:大阪府立大学先端科学研究所 教授 溝畑 朗
 近年、大気中の粒子状物質とその健康影響に、より強い関心が向けられるようになった。特に、公害裁判の判決においても粒子状物質と健康被害との関係が認定されており、2000年1月の尼崎大気汚染公害訴訟の判決で、国道43号線沿道50m以内の地域においては、浮遊粒子状物質について、日平均0.15mg/m3を超える汚染物質の排出差し止めが命じられた。このような状況のなかでとりわけ注目されているものとして、粒子の粒径が2.5μm以下の微小粒子、いわゆるPM2.5があげられる。
 このPM2.5については、粒子状物質と健康被害との関係について十分にメカニズムが解明されているわけではないが、健康被害の把握に加え、施設や自動車など発生源の把握、PM2.5の計測法などに関する研究が進められている。このなかで、溝畑先生が研究されているCMBレセプターモデルを用いた主要発生源寄与濃度の解析が注目される。
 環境大気中で観測されるPMの成分の質量濃度は、測定点にもたらされる発生源粒子の化学成分濃度パターンをある重率で重ね合わせたもので、複数の化学成分数と発生源数が得られると、連立方程式を解くことにより発生源の寄与濃度を求めることができる。この解析法によるとPM濃度の90%程度を説明することができるといわれ、発生源からの発生量と性状変化を組み込むことにより、数値計算を用いた拡散シミュレーションからのアプローチと併せて、発生源からのメカニズムが解明されていくと思われる。
 これらの研究が進むにつれ、発生源に対する排出規制が行われることも想定される。その対象として、PMの大きな発生源とされるディーゼル車や固定発生源に対する規制の動向、さらにはPM2.5の環境基準の設定等、今後の行政の動向に注目したい。

(レポーター:(株)関西総合環境センター 内山和也)

■関西支部 第2回関西研究集会レポート 平成12年10月19日
「兵庫県立コウノトリの郷公園」での研究集会

講師:
兵庫県立コウノトリの郷公園 主任研究員

姫路工業大学 助教授 大迫義人
 コウノトリの野生復帰を計画している「兵庫県立コウノトリの郷公園」を見学した。豊岡では平成元年以来コウノトリの人工繁殖に成功しており、現在約80羽が飼育されている。兵庫県出身の私としては、コウノトリには親近感を覚える一方、絶滅危惧に追い込んでしまった重苦しさも感じていた。実際、現地でコウノトリの剥製に出迎えられると、剥製特有のシュールさに重苦しさが増幅された。
 ところが、建物を抜けると、あっけなくコウノトリが現れた。正直、拍子抜けした。数羽が放されており、数mの所まで近寄ってくるのである。コウノトリはわれわれなど素知らぬ顔で、ドジョウをついばんだり、クラッキング(成鳥はくちばしを叩き合わせて音を出す)したりしている。生きたコウノトリには表情があった。大迫氏の講演は、かつてコウノトリがいかに人の身近にいたかがテーマであった。水田が開かれ、ドジョウや小動物が棲みつき、コウノトリが人や牛の目の前で餌をついばむ。稲を踏み倒す彼らに子供たちが石を投げていたかと思えば、鶴山と称して松の上に巣架けするコウノトリに親しむ、等々。
 実は、そんな多面的な人とコウノトリとの関係を、コウノトリの郷公園は企画している。谷津田を利用した165haの敷地はエコアップされ、コウノトリを野生に帰す研究ゾーン、野生に帰ったコウノトリの生息環境、観察のための公開ゾーンとして人と自然とをつないでいる。そして、この「郷」を訪れたわれわれは、自らの生活環境を見直し、身近な生態系を積み重ねることが、ひいてはコウノトリの生息環境を形成することになる、そんな環境社会システムのあり方を提起されるのだ。今のところ、われわれとコウノトリはフェンスで隔てられている。一見、羽切りされた彼らが囲われているようである。しかし、われわれが自身の生活環境をフェンスの内側に囲っているのであって、実はフェンスの外側の小さな空間に彼らを追いやっているのかもしれないのである。

(レポーター:日本工営(株) 西川隆清)

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