活動報告

セミナー・レポートサマリー 116

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■ 海外交流グループ 平成19年6月3日〜8日
「IAIA(国際影響評価学会)」参加報告


1.IAIAとは?


 International Association for Impact Assessmentの略、国際影響評価学会。1980年設立、現在約100か国以上、約2,500人が加盟している。学会で研究されているテーマは、EIA(環境影響評価)とHIA(健康影響評価)が主体であるが、その他、社会・経済・文化などの影響評価も対象としている。

2.概要


 第27回である今回の年次総会は、SEA(戦略的環境アセスメント)、HIA、生物多様性、災害に関する話題を中心に、影響評価に関するさまざまな分野、アジア諸国で問題となっている越境問題を含め進められた。この総会を通じて情報の交換・相互関係の構築を図り、経済成長と環境保護をうまく共存させる新しい原理を創り出す場にしたいという背景がある。
 今回の総会は「Growth, Conservation and Responsibility(発展、保護と責任)」というテーマのもと、「影響評価を通じて健全な自治と社会管理の促進を」をサブタイトルに、韓国ソウルのコンベンションセンターにおいて開催された。参加費が720ドル(約9万円)と高価であったにもかかわらず、84か国から850名、うち日本人22名の参加者がいた。総会は6月3日(日)〜6月8日(金)の日程で行われ、われわれは6月4日〜6日にかけて参加した。開会式では、環境経済学とサステイナビリティを専門とするソウル国立大学教授、世界保健機関から公衆衛生と環境部の会長等、国際的な意思決定者等5名による基調講演が行われた。
 オープニングレセプションに続き、トレーニングコース、テーマフォーラム、個別のセッションへ積極的に参加し、限られた参加期間ではあったが、諸外国の影響評価に関する取り組みや価値観の差異などについて大きな収穫を得られた。

3.SEAに関する各国の取り組み


 一口にSEAといっても、発展途上国と先進国では認識も取り組みも異なっている。ここでは、国際機関、発展途上国、先進国そして日本に視点を置いて、今回得た情報を紹介する。

(1)国際機関とSEA

 世界銀行は、東アジアと太平洋地域の国々に対して、特にその国での開発計画と開発方針へSEAを融合することで、困難に直面している国々へアドバイス・事例などを含めた講習会を行いSEAの導入を奨励している。

(2)発展途上国とSEA

 持続可能な意思決定、SEAと持続可能な開発のつながりに注目が高まっているという事実に反して、国レベルでのSEAの導入・実施については、利益を第一優先するという考えが先行し、また環境配慮は開発を妨げるといった理由から、実質機能しているとはいいがたい。現段階では、計画段階からの環境影響を評価するのではなく、事後措置的な対策を取ることがほとんどである。
 発表・論文に共通して見られたのが、環境に対する対策・方針は存在するがうまく機能せず、結果的に環境破壊へとつながっているという傾向であった。また、SEAに対する能力の構築、経験および必要条件を満たすということがもっとも大きな課題となっているようである。特徴として、援助される立場を強調して、更なる支援を求めるという一面が見うけられた。

(3)先進国とSEA

 SEAの制度が比較的早い時期に導入されており、SEA・EIAともにその効果を発揮している。SEAが自治体の土地利用計画あるいは地域計画に密接にリンクしており、方針・計画・プログラムと確実な代替案の実施を条件としていることが多い。実施するだけでなく、これらの国では環境への配慮を進めるため新たな方針・対策の立案、さらには、実施が遅れている国などに対し情報を公開するなどその普及を進める動きがあり、援助する立場として余裕がみられた。
 総会に参加していた欧州の国々では、多くが先端を行くようにみられた。(米国の発表が少なかった。)

(4)日本とSEA

 わが国では、SEAの制度化を求める機運は高まりつつあるものの、少数の先進自治体にのみ実行されている程度で、国レベルでのSEAの制度化は実施されていない。今回の援助する側の国の状況を勘案すると若干遅れ気味といわざるを得ない。しかしながら、EIAの実績が多数あるため、環境アセスメント技術に関しては日本が援助する立場として協力していくチャンスは多くあるといえる。また、発展途上国の多くの国に残されている課題の一つとして産業発展にともなう環境への影響があるため、環境に関するその他の対策などにおいても技術援助を行うことは、大いに可能性があると考えられる。

4.セッションへの参加


 今回、数あるセッションの中からアジア地域におけるSEAに関するセッションに参加した。各国20分程度の発表と質疑により構成され、発表者と質問者が区別なく常に英語で議論しながら、しかし、アットホームな雰囲気で進んでいた。
 世界最大の人口を占めるアジアで、SEAの適応は、グローバルな観点からも非常に重要であり、アジア地域の多くの国々で導入に向けた努力がなされている。しかしながら、十分なデータベースが構築されていなかったり、SEAに対する能力の構築、経験が乏しかったりという理由でその本格的な導入がなされていない状態である。SEA制度導入の必要性は誰しも認めているところであるが、効果的な実施に向けての対応の必要を感じた。
 参考までにこのセッションに参加したアジア諸国のSEAに関する資料を表に示す。

■表 アジア諸国におけるSEAの関与者

主たる関与者 中国 イラン モンゴル フィリピン スリランカ ベトナム
政策担当者
計画立案者
行政官
NGO
コンサル/学識者  
大衆
政府機関(省庁)

記号:○ 関与 大  ◆ 関与 小

5.おわりに


 全体を通じて、本総会は物事を決定したり誘導したりするものではなく、国を越えた影響評価に関する社交の場であると感じた。国際機関、先進国、発展途上国、民間、行政、そして学識者などが、さまざまな立場から意見を交換し、合意形成を図っている。
 来年はオーストラリアのパースでの開催が予定されている。
(レポーター:エヌエス環境(株)瀬口 純/パシフィックコンサルタンツ(株)古松正博)

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