活動報告

セミナー・レポートサマリー 121

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■第2回公開セミナー・レポート 平成20年8月20日
サステイナブル都市再開発ガイドライン
〜都市再開発におけるミニアセス〜について

講師:
環境省総合環境政策局環境影響審査室 室長補佐 長坂雄一



 都市再開発は、一体の事業計画で複数の建築物群が建設される等、都市環境に大きな影響を与える可能性がある。よって、事業者による温室効果ガス排出量の削減、廃棄物の減量・適正処理およびヒートアイランド現象の緩和などの取り組みが必要となってくる。環境省では、これらの取り組みを一層促進するため、事業規模に対応した自主的なアセスメント(ミニアセス)の具体的な方法を標記ガイドラインとしてとりまとめた。
 対象となる事業は、ある一定範囲で新築、増改築または機能改善が行われる建築物群および関連する土地造成事業で、対象規模は合計延床面積20万u程度以上を目安としている。事業主体は、環境配慮の取り組みを計画立案し、管理運営できる者(協議会、法人等)としており、実施時期は、事業計画の諸元が確定する「建築確認申請」前までとなっている。環境影響評価に係る条例の対象となる事業が本ミニアセスの対象事業に含まれる場合には、実施時期を調整する等できる限り効率的に行う。手続きとしては、まず評価書(案)を作成し、次にその内容の公開・周知を行う。その後、住民意見や知事等の指導・助言を反映して評価書を作成し、公開する。
 また、都市再開発において考慮すべき対応策として、実行可能な範囲内で影響を回避し・低減すること、必要に応じ損なわれる環境の有する価値を代償するための措置を検討することおよび環境保全措置を検討すること等があげられ、「温室効果ガスに係るミティゲーション手法のガイドライン」についても紹介された。
 質疑応答では、ミニアセス評価書(案)を各自治体に提出しても、現段階では自治体として指導・助言する法的なものがないので、基準となるものが必要ではないか、といった意見や、環境省から自治体への周知および条例の改正等が必要との要望があり、今後の課題と考えられる。
(レポーター:(株)大林組 西田暁子)

■第2回公開セミナー・レポート 平成20年8月20日
アセス制度と環境に配慮したまちづくり
講師:
東京都環境局都市地球環境部環境影響評価課長 近藤 豊



 本発表では、東京都における環境影響評価制度を含めた環境に関する現在の取り組み状況についてご講演いただいた。
 東京都は、平成18年12月に「10年後の東京」を策定し、都が世界の諸都市の「範」となる都市の実現に向け、高いレベルの成長を遂げていく姿を示した。また、この近未来像の実現に向け、平成20年3月に新「環境基本計画」を策定し、少ないエネルギー消費で快適に生活できる都市を目指している。
 新「環境基本計画」では、横断的・総合的施策として、人間の生存基盤となる「環境」が健全でない状態では市場経済活動を営むことができないという共通認識のもと、都市づくり、都市活動、都政のあらゆる場面において環境配慮・環境対応を内在化させることにより、環境配慮の促進を図ることとしている。また、具体的配慮事項を列挙した指針を示し、都市づくりにおけるチェックリストとして活用していくとともに、計画段階アセスにおける環境配慮事項の検討への活用も見込まれている。
 東京都の環境影響評価制度においては、環境影響評価の実施により事業段階の早期に収集された情報を共有、活用するなど、他の施策との連携強化が図られている。たとえば、延べ床面積1万u超で環境影響評価の規模要件に満たない建築物を新築または増築する場合、建築主が環境配慮に努めることを義務づける「東京都建築物環境計画書制度」を定めている。
 また、東京都は2016年のオリンピック候補都市となっている。オリンピックの招致は持続可能な都市づくりを世界に発信する絶好の機会と捉えるとともに、招致に向けたさまざまな活動を持続可能な都市づくりのきっかけとして、環境配慮活動をさらに推進していくこととしている。
(レポーター:日本工営(株) 長谷川育世)

■第3回公開セミナー・レポート 平成20年9月18日
研究部会成果発表会



 本セミナーは、研究部会に所属する自然環境影響評価技法研究会、条例アセス研究会、新領域研究会、政策課題研究会の4研究会における平成18、19年度研究成果発表会として開催された。

◆自然環境影響評価技法研究会報告

(1)生態系の定量的評価手法の提言と普及手法に関する研究

 自然環境影響評価技法研究会では、自然環境の定量的予測手法支援サイトの開設に関する研究を実施しているが、本発表ではWikiを利用し、相互に情報交換できるホームページの開設について紹介された。現在、一般公開に向けた最終作業が進められているとのことであるが、公開が楽しみである。
 また、戦略的環境アセスメント(SEA)におけるHEPの活用可能性に関する発表では、里山生態系でのケーススタディの結果が紹介された。その結果をとおして、HEPが共通認識を図るためのコミュニケーションツールとして有用であるとの報告があった。

(2)ロジスティック回帰モデルを用いた生態系の定量的予測と保全対策の立案への応用

 本発表では、ニホンアカガエルを典型性の注目種として、その調査・予測・評価に関する報告があった。この研究は、千葉県中央部の約460haをフィールドとして、東邦大学理学部との共同研究の形で行われた。評価指標としては、産卵環境を「好適」と「好適でない」の2種類に分類した生息地適合性指数を用い、予測式の結果を詳細な現地調査で検証することで信頼性を高めていた。この指標は、保全対策後の変化や複数案の費用対効果の定量評価に活用できるため、説明責任を果たす際に非常に有効であると感じた。
  (レポーター:(株)建設技術研究所 大久保秀一)
 
◆条例アセス研究会報告:環境影響評価条例に基づく事後調査に関する研究

 本研究は、条例に基づく環境アセスメントにおいて、事後調査を環境影響評価にかかわる技術的な事項の改善・向上に活用することを目的として、アンケート調査により事後調査に関する現状を把握し、その結果を整理したものである。地方自治体向けアンケートでは、環境アセスメントに関する条例を定めていない政令指定都市を除くすべての都道府県および14の政令指定都市から回答を得ており、事後調査結果の審査に対する考え方への温度差や、記載内容・手続き方法の多様性など、事後調査に対する自治体の考え方の違いが浮き彫りとなり、大変興味深いものであった。
 一方、協会会員向けアンケートにおいては、事後調査の実施・非実施項目やその理由、実施時期・回数などが、工事中および供用開始後別に分析されており、今後の事後調査計画策定における考え方の整理に役立つものであった。
 本研究を踏まえて行われている次ステージの研究成果に期待する。
  (レポーター:清水建設(株) 米山佳)
 
◆新領域研究会報告:よりよい環境アセスメントをめざして〜コミュニケーターのすすめ〜

 平成12年度から行われてきたコミュニケーション技法研究の継続であり、コミュニケーターという“コミュニケーションを実現するために第三者的に介在する人もしくはグループ”について、その考え方を整理し、制度導入などについての提案を行っている。
 コミュニケーターを6つの類型に分類しているが、そのなかでは、現行のアセス付随型から、事業者に限定せず利害関係者全員を対象に考え、環境を含む広範な利害を検討の対象とする「メディエーター型」への移行が望ましいとしている。また、コミュニケーターは、概略計画検討段階における参加が重要であることも指摘している。
 一般的にコミュニケーターは、コンサルタントとしてアセス手続きを行うなかで、現行アセス付随型コミュニケーターとしての役割を担っており、第三者的な立場において事業に参画するメディエーター型コミュニケーターへ発展するためには、コミュニケーターの普及活動や養成制度・登録制度などさまざまなサポート組織が必要とされているが、今後の研究活動、普及活動に期待したい。
  (レポーター:清水建設(株) 米山佳伸)
 
◆政策課題研究会報告:ミニアセスに関する研究について

 ミニアセスに含まれるものとしては、市町レベルでの条例・要綱、個別法または自主的なものなどがあり、今後の新規市場開拓の面からも研究対象としての意義は大きい。本発表では、JEAS会員および関東の15自治体へのヒアリング調査をもとに、現状、課題、ニーズについての報告があった。
 ミニアセスの事例には、小規模の工業団地や住宅団地、野球場、総合病院、火葬場などがあり、実施した理由としては、「周辺に豊かな自然や観光地がある」ことが主としてあげられた。また、アセス条例等を有する自治体(9団体)では、ガイドや手引き書がないこと、条例等がない自治体(6団体)では、どのように環境影響評価を行うかの技術的な問題やフルスペックの際の負担の増大が課題にあがっていた。今後の研究会の活動としては、1)自主アセス実施によるメリットとデメリットの明確化、2)自主アセス実施の判断や考え方を示す「自主的環境影響評価実施ガイドライン」等の作成を見据えた事例収集の2点を行う予定であるとのことであった。
 ミニアセスの現状を知る機会が少ないなかで、実務担当者へのアンケートをもとに生の声を集約した、非常に貴重な報告であった。
  (レポーター:(株)建設技術研究所 大久保秀一)

■第4回公開セミナー・レポート 平成20年10月1日
環境リスクの現状と今後の展望

 今回のセミナーは、(社)土木学会主催の研究報告会に当協会が共催し、実施されたものである。報告の内容は、(社)土木学会コンサルタント委員会環境問題研究小委員会における、平成18、19年度の2年度にわたる「環境リスク」についての研究成果である。

1.環境リスクの総論(概念、分類、現状、展望)

講師:
(社)土木学会コンサルタント委員会環境問題研究小委員会 石川 一
 この研究会では、環境リスクを「人の活動によって生じるリスク」と定義し検討された。環境リスクに影響を及ぼす対象として、健康リスク、生態リスク、生活の質へのリスクの3つに分類し、これに基づいて事例が収集、検討され、結果の一部は後の事例紹介で報告された。
 さらに、今回検討された環境リスクの現状を踏まえ、課題として、環境アセスメントにおける定量的評価技術の活用、化学物質の使用に係るリスクに関する残留農薬問題、廃棄物処理場の立地に対するSEAの導入およびリスクコミュニケーション技術の向上等があげられた。

2.事例紹介

(1)健康リスクの例:自然由来による土壌ヒ素汚染の判定方法等

講師:
(株)ドーコン 辰巳健一
  土壌汚染対策法では、自然由来の土壌汚染は適用対象外であるが、汚染が自然由来かどうかの判断が問題になる。この判断に対する現状での考え方が紹介され、事例として札幌市のヒ素汚染について報告された。事例では、その原因の確認過程と、自然由来による健康被害問題の効果的な管理方策に関する検討内容の紹介があった。
実際に高濃度の汚染が確認されたとき、それが自然由来であるかどうかを判断するには、対象物質を確認し、濃度、局所性を検討した後、地域特性を考慮して決定するという考え方が紹介されたが、これは他地域での同様の事例の判断に役立つものであると考えられた。

(2)生態リスクの例:生物に関する環境リスクの基本的な手法とケーススタディー

講師:
(株)建設技術研究所 遠藤慎一
  生物に関する環境リスクについて、生息地改変のリスクに着目し、ある生物の絶滅リスクを生息適性度におきかえ、リスクマネジメントを行う方法が紹介された。具体例としてオオセッカを取り上げ、さえずり地点(ソングポスト)と植生の関連に着目して解析した。その結果、HEPによる繁殖適地率を用いてオオセッカのハビタットを定量的に評価できる可能性が示された。

(3)生活の質へのリスクの例:清掃工場における環境監視とリスク管理

講師:
(社)土木学会コンサルタント委員会環境問題研究小委員会 村山克也
  清掃工場建設において、住民との公害防止協定が成立せず、代替案として環境監視方針の策定を行った事例について報告された。計画策定には住民、学識経験者が参加し、危機管理も盛り込まれた環境監視方針が定められた。また、稼動開始後のモニタリング時に高濃度のダイオキシン類が検出されたが、原因は工場由来ではないと判断し、住民の理解を得た事例も報告された。
 今回のような委員会形式による環境監視方針の策定は、住民との信頼関係の構築に役立っていることが確認され、先駆的な事例として位置づけられた。

3.パネルディスカッション

 各講演者がパネリストとして出席し、講演に関する質問に対する回答と、今回のテーマに対する各パネリストの今後の取り組み方についての意見が述べられた。
 各パネリストからは、今後必要な取り組みとして、評価の定量化、既存データの効率的利用、住民との合意形成、リスクコミュニケーションといったキーワードがあげられ、これらの課題が今後の研究につながっていくことが述べられた。
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セミナー全体をとおして、環境リスクの考え方と具体的事例により、環境アセスメントの実施に役立つさまざまなヒントが示唆され、有意義な共催セミナーであった。
(レポーター:日本エヌ・ユー・エス(株) 堀内和司)

■第5回公開セミナー・レポート 平成20年10月27日
ライフサイクルアセスメント(LCA)の環境アセスメントへの展開の可能性


本セミナーは、(社)土木学会環境システム委員会との共催セミナーとして10月27日(月)に開催され、4講演と討議が行われた。

総論「LCAの発展と社会資本整備への展開」
産業技術総合研究所安全科学研究部門社会とLCA研究グループ長 玄地 裕

 講演では、LCAの概念、企業におけるLCAの活用状況、LCAの実施方法、日本版被害算定型環境影響評価手法(LIME)の概要と実施例、社会資本整備分野でのLCA手法の適用など、わが国におけるLCA研究の現状および今後の展望について総論的な話題が提供された。
 LCAは、文字どおり製品・サービスのライフサイクル全体の環境負荷や影響を定量化する手法であり、今日では地球温暖化問題を考慮する手法として定着してきている。
 LCAの手順は、(1)目的と範囲の設定、(2)インベントリ分析、(3)インパクト評価、(4)結果の解釈、の4段階で構成されている。また、LIME手法は、CO2など環境負荷データから人の健康、社会資産、生物多様性、一次生産の4側面から影響評価し、その合算被害額を算出する手法である。

講演1「地域開発(商業施設を中心とした面的開発)への適用と今後の展望」
芝浦工業大学工学部機械系共通 講師 栗島英明

 商業施設開発へのLCAの適用として、地方都市の事例が紹介され、土地造成・道路建設段階から、商業施設等の建設段階および運用段階について、資源投入量とCO2排出量などのインベントリ分析、およびLIME手法を用いたスタディ結果が報告された。この分野に関して、地域的なインベントリデータの不足、騒音・振動や生物種の保護など局所的な環境影響評価の困難性、データ精度の限界性、などの課題が指摘されたが、LCAは環境アセスメントと相互補完の形で用いることが望ましいとの結語であった。

講演2「道路・鉄軌道整備評価への適用」
名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 准教授 加藤博和

 道路整備として連続立体交差化事業による踏切除去、鉄軌道整備としてLRT(Light Rail Transit)およびBRT(Bus Rapid Transit)を取り上げ、LCA適用によるスタディ結果の紹介があった。環境負荷のインベントリ分析では、工事費積算と同様の方法で環境負荷原単位を算出しており、標準的な構造物のライフサイクル環境負荷に関するデータはかなり整えられてきている。

講演3「廃棄物・生活排水処理への適用」
和歌山工業高等専門学校環境都市工学科 教授 巻峰夫

 LCAの廃棄物・生活排水処理への適用例として、地方都市において環境負荷の小さい一般廃棄物処理システムおよび生活排水処理システムの検討結果が報告された。
 いずれも計画段階での適用事例であり、SEAでの活用が期待できる。

総合討論

 会場からの質問に各講師が回答する形で討論が進められ、活発な議論が行われた。

○感想

 この講演を聴講して、環境アセスメントの対象分野でもある都市・地域開発、インフラ整備、廃棄物処理施設整備等において、環境負荷低減のためにLCA手法の研究・開発に意欲的に取り組まれているとの印象をもった。また、LCA手法は、代替案も含めて環境影響を比較評価する手法であることから、EIAにおいて取り入れが可能な点が多々あり、SEAでも大いに参考すべきと考えられる。
 なお、この分野ではインベントリ分析のための基礎的なデータがまだ不足しており、今後、この分野での研究が進み、各種データ整備が進めば、環境アセスメントにおいても活用可能性が一層高まるものと期待される。
(レポーター:(株)日建設計 池田英治)

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