活動報告

セミナー・レポートサマリー 89

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■第2回定例セミナー・レポート 平成12年9月29日
「川崎市環境影響評価に関する条例の改定について」

講師:
川崎市環境局総務部環境審査課

副主幹 鴨志田壽夫、同 副主幹 福井俊夫
 国の環境影響評価法が制定された後、各地方自治体では環境影響評価に関する条例や要綱の改定を行っているが、川崎市においても大幅な改定を行い、平成11年12月24日に条例を公布、施行規則等も平成12年9月5日に公布し、12月1日に条例は施行される。
 川崎市は、全国に先駆けて1976年に「環境影響評価に関する条例」を制定して、環境影響評価を義務づけた地方自治体である。従来から罰則の明文化や小規模な開発までを環境影響評価の対象にするなど独自性が強く、先進的な面がみられた。今回の改定でもそのような点がいくつもみられる。
 注目すべき改定点をあげると、(1) 規模別に第1種行為から第3種行為に区分して、小規模な開発は手続きを簡素化し、大規模な開発に対する影響評価を強化したこと、(2) 指定開発行為(環境影響評価の対象事業)を従来の11種から15種に拡大したこと(電気工作物・商業施設・研究施設・大規模建築物の新設を追加)、(3) 細切れ開発による環境影響評価を避けることを防ぐため、複合開発事業を新たに対象にしたこと、(4) 事業計画に変更が生じた際、手続きが免除される軽微な変更の範囲を明確化したことである。
 このような条例改定の背景には、環境影響評価の公聴会に多数が参加するという、市民の環境への関心の高さがあるのであろう。実現を果たせなかったが、環境影響評価の審査結果を許認可の条件にということが問われたということであり、この点については、今後さらに討議されていくものと思われる。また、川崎市の条例は他の地方自治体でも参考とされていくであろう。環境影響評価の基盤が整備されていくにつれ、環境影響評価に携わる者の責任が重くなっていくことが感じられた。

(レポーター:(株)サンコー環境調査センター 福山賢仁)

■第2回定例セミナー・レポート 平成12年9月29日
「オオタカの生態と開発問題」

講師:日本大学生物資源科学部造園学研究室 専任講師 葉山嘉一
 葉山嘉一講師から(1) 神奈川・埼玉両県のオオタカ生息現況および営巣林の植生、(2) 営巣地の周辺環境と保全、(3) オオタカの種生態、特に生態把握と行動圏解析、(4) オオタカ保護の試みについて、講演していただいた。
 オオタカは里山的自然環境のなかで生息しているが、里山は年々減少し続けており、オオタカの生息環境が今後どれだけ担保されているかが問題である。
 神奈川県の場合、オオタカの分布は29か所(29つがい)確認されており(1999年現在)、主に箱根から丹沢山地周辺のスギ植林地に営巣している場合が多い。埼玉県の場合、51か所(51つがい)確認されており(1998年現在)、標高50〜200mの台地丘陵地に多く分布し、植生はアカマツ林16つがい、スギ・ヒノキ植林12つがい、広葉樹林12つがい、その他6つがいの順となっている。
 営巣環境の保全と安全性については、両県とも土地利用規制による指定地域が31〜32%程度である。開発問題が関係している営巣地は、神奈川県29か所のうち20か所(69%)、埼玉県47か所のうち21か所(44.7%)と発表されている。オオタカ保護のための試みとして、埼玉県は「オオタカとの共生を目指して――埼玉県オオタカ保護指針」を策定した。これにより開発担当部署の対応が変化し、前向きな対応が増えている。
 近年、猛禽類調査が頻繁に実施されることもあり、オオタカは各地での生息は増加傾向にあると思われたが、神奈川県の29つがい、埼玉県での51つがいは少ないというのが正直な感想である。オオタカは街に近い里山で生息しているため、開発計画とバッティングするケースが今後も多くなると考えられる。自然との共生、持続可能な開発を考えた場合、事前に“開発ありき”ではなく、開発計画取り消しも含めた行政サイドの戦略的なアセスメントの必要性を感じた。

(レポーター:(株)計測技術センター 上口 勝)

■第3回野外セミナー・レポート 平成12年10月25日
「座間谷戸山公園」

−自然の概要、整備基本計画、整備内容、里山維持管理の実際等について−
 第3回野外セミナーは、神奈川県座間市にある谷戸山公園で平成12年10月25日に開催された。午前中は(株)東京ランドスケープ研究所の石川啓吾氏から、建設省のアーバンエコロジーパーク事業の第1号に指定された同公園の整備概要について講義を受け、午後から公園内の現状を見学した。公園の計画から完成までの経緯を通じて、里山の環境保全を継続するうえでアーバンエコロジーパークという自然生態観察公園としての機能を果たすために、調査や施工に十分な配慮がなされていることについて理解を深めた。
 その後、石川氏と、同じく(株)東京ランドスケープ研究所の鹿島氏の二人から説明を受けながら、まず講義の行われた里山体験館がある里のゾーンから見学を始めた。ここは3つのゾーンに区分けされた園内の施設区域にあたり、収穫された稲穂が干されている田んぼには“たんぼの一年”と説明の描かれた案内板で、その様子がわかりやすく解説されている。園内は人工物を極力設置しないことになっているが、要所要所にはこのような案内板が設けられ、身近な自然に触れ合うことのできる自然環境教育の場としての役割を担っている。
 次に保護区域にあたる谷戸山ゾーンには、水鳥の池を中心に湿性生態園、野鳥観察小屋・ウォール等が設けられている。また、ここから保全区域の山のゾーンにかけての見学では、植栽や木道、カントリー・ストーンヘッジ等によって心理的に人の立ち入りを抑制する工夫が有効であることがよくわかった。2時間ほどで園内のおよそ半分を見て回ったが、平成5年の開園後、現在もまだ完成途上という状況である。人の手が加わった自然環境の定着には、相当の時間を要するとともに、その管理・維持には、住民やボランティアの協力が不可欠であることを感じさせられる。そのことをこのセミナーに参加して実際に認識することができた。

(レポーター:(株)フォレステック 田島裕子)

■海外研修委員会
「カナダ環境産業協会代表のJEAS訪問について」

 平成12年8月4日(金)、カナダ大使館商務部の紹介でカナダ環境産業協会(CEIA:Canadian Environment Industry Association)のアントン・デービス氏 ( Ph.D. Anton E. Davies)が当協会を訪問され、情報交換を行った。海外交流委員会の稲見委員と吉田事務局長、河村次長が対応した。
 CEIA 協会の組織と活動には、ポリシー・フォーラムと呼ばれるカナダ国内における環境分野の企業活動を支援する組織と、輸出委員会と呼ばれる海外へ進出を検討している企業への支援を行う組織がある。現在、CEIA 協会は、環境測定・分析などの技術を保有するカナダ企業で日本市場に興味を持っている企業をグループ化し、カナダの先端環境技術と日本企業との業務提携の可能性などを打診している。10月には、滋賀県におけるビジネスメッセ(カナダ環境ビジネスセミナー「新しいカナダの発見」)への参加も予定している。
 アントン・デービス氏は、CEIA 協会の輸出委員会のメンバーであるとともに、Rowan Williams Davies & Irwin Inc.(RWDI)の副社長でもあり、大気環境シミュレーションモデルの解析ツールの利用の可能性を世界各国の研究所や企業に営業されている。当協会へは、CEIA 協会の活動内容に関する冊子・CD-ROMと、RWDI 社の業務案内資料等が提供された。なお、CEIA 協会およびRWDI社のウェブサイトは、http://www.ceia-acie.caおよびhttp://www.rwdi.com なのでご覧いただきたい。
 CEIA 協会会員のJEAS訪問は前回(平成11年10月)に次いで2回目であり、当協会およびJEAS会員企業との情報交換の継続を希望している。

(レポーター:(株)野村総合研究所 稲見浩之)

■第2回技術セミナー・レポート 平成12年10月12日
「環境庁・環境影響評価技術検討会の中間報告」

テーマ1:
「戦略的環境アセスメントの検討について」
講師:環境庁企画調整局環境影響評価課 課長補佐 小森 繁

テーマ2:
「環境庁におけるアセス技術の検討」および

「自然との触れ合い分野の調査・予測の進め方について」
講師:環境庁企画調整局環境影響評価課 評価技術調整官 渡辺綱男

テーマ3:
「大気・水・環境負荷のスコーピングの進め方について」
講師:環境庁企画調整局環境影響評価課 地方評価制度専門官 千葉裕司

テーマ4:
「生態系アセスメントの進め方について」
講師:環境庁企画調整局環境影響評価課 課長補佐 中山隆治

 今回の技術セミナーは、環境影響評価法の新たな制度に対応した環境影響評価技術の向上を目的とした検討会の成果のポイントおよび戦略的環境アセスメント(SEA)について、4人の講師をお迎えして行われた。

「戦略的環境アセスメント(SEA)」
 SEAは、事業実施に先立って、事業アセスの限界を補完し、環境配慮を事業化の早い段階からさらに広範な環境配慮を行うことを目的としている。事業化の早い段階とは、「政策(Policy)」「計画(Plan)」「プログラム(Program)」の「3つのP」であるが、事業アセスと同様、SEAにおいてもスコーピングは重要なプロセスとなる。事業アセスよりも事業内容が漠然としている段階でのアセスであり、不確定性が大きいため、弾力的な対応と複数案の比較評価等が必要とされる。また、SEAを行った後の事業アセスでは、評価の重複を避けるためにSEAの結果を適切に活用することが重要であるという主要点を解説していただいた。

「環境影響評価技術検討会中間報告書」
 渡辺綱男評価技術調整官から、検討会の目的、経緯、概要等について解説していただいた後、環境影響評価法で新たに追加された3つの分野について、今後の環境アセスメントを進めるうえでの考え方のポイントを中心に、中間報告書の説明が行われた。以下、講演のなかで各講師が強調された中間報告書のポイントを列記する。

(1)生物の多様性分野
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予測手法について、基本的事項で例示された上位性、典型性、特殊性の視点からの注目種による手法を具体的に示した。
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陸域では対象地域の基盤環境と生物群集の関係、海域では物質循環(浄化機能)や生物の育成場などの海域生態系がもつ重要な機能を整理して、事業が及ぼす影響を検討し、その手法を具体的に示した。
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陸水域生態系の特徴を踏まえたスコーピングの進め方について検討し、具体的な手法を示した。

(2)自然との触れ合い分野
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自然性、眺望性、調和性などの価値評価の尺度に照らして、客観的なアセスを行うことを提案した。
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価値軸として、普遍価値と固有価値の大きく二つをあげ、郷土性、歴史性、親近性などの地域固有の価値を有する景観や触れ合い活動の場への影響もきちんととらえるべきことを提案した。
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眺望景観と併せて、事業地近くの身近な身のまわりの景観である囲繞景観への影響もとらえていくべきことを提案した。
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活動区という単位を設定して、活動の状態、活動を支える環境の状態、活動の観点から見た場の価値の変化をとらえる手法を提案した。

(3)大気・水・環境負荷分野
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従来対象とされていなかった項目への影響も必要に応じてとらえる必要があり、個々の事業ごとに適切な項目を選定していく考え方を示した。
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アセスの最終目的は評価であることから、評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討の順に検討を進め、明確な視点をもって調査・予測・評価の実施計画を立案すべきである。
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環境を改善する方向への影響を含めて評価する考え方もありうる。
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不確実性のない予測はありえない。場合により、複数の予測条件や予測手法による結果を併記するなどの柔軟性が必要である。
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事業のライフサイクル全般にわたり、それぞれの段階での負荷の発生・排出量を予測し、負荷の削減のための措置を検討する考え方が大切である。

 今回の講演で強調されていたのは、アセスメントで最も大事なのは「事業者の正直さ」であるということであった。マニュアルどおりに手続きを進めるのではなく、手続きにも柔軟性をもち、環境への配慮についての事業者の努力の程度を具体的にわかりやすく示すことが望まれる。
(レポーター:(株)建設技術研究所 中村恭子)

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