活動報告

セミナー・レポートサマリー 94

NEXT >>>

■第2回技術セミナー 平成13年12月3日
「戦略的アセスメントの取り組みについて」

講師:
環境省総合環境政策局環境影響評価課 課長補佐 小森 繁
 戦略的環境アセスメント(SEA)とは、個別の事業実施に先立つ「戦略的な意思決定段階」、すなわち政策、計画、プログラムを対象とする環境アセスメントであり、早い段階からより広範な環境配慮を行うことができる仕組みである。
 現在、国内で行われている環境アセスメントは、港湾計画などの例外を除くと、事業実施段階でのアセスメント(事業アセス)である。政策や計画段階で、環境への配慮は各行政機関内部で検討されており、情報交流や透明性といった観点からは十分とはいえない状況にある。SEA導入の意義は、政策・計画段階において情報公開し、さまざまな意見や情報を得ることによって、より質の高い環境配慮を計画等に反映させていくことにある。
 また事業アセスでは、上位計画などで事業の枠組みがすでに決定されているため、環境への配慮が必要な場合でも検討の幅が限られている。このことは、ほとんどのアセスメント技術者が実務を通して感じていることで、苦労した経験のある人も多いであろう。SEAのもうひとつの意義として、このような事業アセスでの限界を補う役割もある。
 SEAは、東京都などいくつかの自治体で具体的な取り組みが進められており、われわれ技術者が実務として携わる日もそう遠くはないと思われる。


「自然環境分野の環境保全措置・評価・事後調査の進め方」

講師:
環境省総合環境政策局環境影響評価課 課長補佐 川越久史
 環境保全措置は、あくまで回避・低減措置が優先であり、代償措置は回避・低減措置の効果が十分でない場合などに検討されるものである。しかし、事業アセスでは回避・低減の幅が実質的に限られているため、代償措置の実施例は今後も少なくないと思われる。
 代償措置における留意点は、技術的困難さを十分踏まえたうえで検討することと、効果の検討を行うことである。効果の検討では、代償措置により損なわれる環境も検討対象であることを見落としてはならない。また、その措置が長期的に存続できるかどうかも重要である。その場限りの保全措置になってしまったり、維持管理に手間がかかる事例もあると聞くが、技術者は責任をもって環境保全措置の立案にのぞむ必要がある。
 評価においては、地元住民の価値認識を生態系評価の視点に取り入れていくことが今後の課題と考えられる。
 最後に、会場からの質問への回答で、生態系の価値の定量的な評価手法であるHEPに関する話題があげられた。
 HEPはアメリカでよく用いられる手法であるが、日本でもそのような定量的手法を確立していく必要があると思う。そのためには、基礎となる生態学的なデータベースを一元的に構築・管理する手法が課題であろう。


「大気・水・環境負荷分野の環境影響評価の進め方」

講師:
環境省総合環境政策局環境影響評価課 地方評価制度専門官 柴田真年
 大気質や騒音・振動は、環境基準や規制基準など数値的な基準があるので、従来のアセスではそれとの整合だけで評価が行われてきた。
 アセス法のもとでは、従来の評価基準も有効であるが、影響をいかに回避・低減しているかが新たな評価基準として加わった。たとえば、現況で環境基準を超過している場合などで、回避・低減での評価が有効になると思われる。
 水環境は、地表水・地中水を相互に関連づけた全体の「水循環系」としてとらえ、予測することがポイントである。また、水環境は生物の生息基盤としても重要であり、場合によっては生物分野も視野に入れて予測手法を選択することもあると思われる。
 温暖化ガスや廃棄物などの環境負荷分野は、影響の空間・時間スケールが他の環境要素と異なり、事業アセスのなかでの扱い方が難しい分野と感じられる。アセスの段階で詳細な工事計画が策定されている例はほとんどなく、原単位の精度も十分とはいえない。準備書では、不確実性の幅が大きいことを明らかにしたうえで予測量を示す必要があると思われる。

(レポーター:三井共同建設コンサルタント(株)山田義朗)

■第2回定例セミナー・レポート 平成13年12月12日
「土壌環境保全対策の最新動向について」

講師:
環境省環境管理局水環境部土壌環境課 課長補佐 長坂雄一
 本講演では、環境省に設置された「土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会」でとりまとめられた「土壌環境保全対策の制度の在り方について(中間とりまとめ)」について紹介があった。このなかで、土壌汚染の複雑かつ多様な問題点について触れられ、土壌汚染対策の法制度構築へ向けての検討経過が説明された。
 土壌環境は、水や大気の環境と同様に、人々の生活に大きな影響を与える重要な環境の構成要素の一つである。しかし、これまで土壌汚染問題については、水や大気の汚染問題に比べると対策が遅れてきた。これは土壌汚染問題が持つ独自の特徴に原因があると考えられている。その特徴とは、まず水や大気と比べて汚染物質の移動性が低く、拡散・希釈されにくいこと、そして発現の態様が多様であることである。
 このため、汚染源が放置されていても、被害が顕在化するまでに時間がかかり、原因の特定も困難となるために、対策が後手に回る傾向にあった。また、土壌汚染問題は土地利用と合わせて対策を講じる必要があり、対策にかかる時間と費用の負担が大きくなるため、これが制約事項となって対策に踏み切れなかった側面も大きい。さらに、土地所有権等の私権との関係があるため、常に利害関係者間で問題が発生し、問題をより複雑化している。
 こうした背景を踏まえると、いかに土壌汚染問題が複雑で、法制度化へ向けて困難な課題が多いかがわかり、認識を新たにした。土壌汚染はいったん顕在化すると周辺環境への影響が大きく、長期にわたって持続する危険性が高い。一刻も早く適切な対策を実施することが求められている。克服すべき課題も数多く残されてはいるが、「土壌環境保全対策の制度の在り方について(中間とりまとめ)」で示された方針に沿ってさらなる検討を進め、実効的な法制度化実現を期待したい。

(レポーター:(株)三菱総合研究所 高橋信吾)

■第2回定例セミナー・レポート 平成13年12月12日
「ヒートアイランド現象の実態解析と対策のあり方について」

講師:
国立環境研究所地球環境研究センター 主任研究員 一ノ瀬俊明
 ヒートアイランド現象は、都市およびその周辺の地上気温の等温線が都心部を中心に島状に市街地をとりまく状態であり、環境省では日本の地方自治体におけるヒートアイランド対策の体系化を目指していくつかの事業を行っている。また、東京都でも屋上緑化の推進を平成12年4月より開始するなど、具体的な対応が始められている。
 本講演では、ヒートアイランド現象について、現状の実態把握をするとともに、シミュレーションモデルを用いてその形成要因を分析し、ヒートアイランド抑制対策を実施した場合の効果について解説していただいた。また、「風の道」に代表される都市気候に配慮した都市計画についてもご講演いただいた。
 東京23区で大気への排熱量を区別にみると、千代田区や港区など商業業務地区を抱えた区が上位を占めるが、夏の昼間の気温分布をシミュレーションによって計算すると、海陸風の影響を受け、渋谷区、新宿区、世田谷区や豊島区など都心よりも内陸側に高温域が広がる。また、熱の発生内容をみると、都心部では周辺部に比べ、ビルの高層化により日射の当たる地表面が少なく、事業所や住宅からの熱量の割合が高くなる。一方、周辺部では日射の影響が大きい地表面からの熱量が多い。
 ヒートアイランド対策手法としては、地表面緑化、屋上・壁面緑化、舗装の保水化、屋上の反射率の向上などがあげられるが、対象地域によって効果的な手法が異なるため、自然条件や地域熱特性を把握し、実践を積み重ねることで、知見を蓄積していくことが必要であろう。
 毎年、熱帯夜の出現日数の増加を実感せざるをえない。これは首都圏だけではなく中小都市においてもその傾向がみられるという。身近な対策から「風の道」のように壮大な施策まで、市民としても技術者の一人としても非常に興味深い内容であった。

(レポーター:八千代エンジニヤリング(株) 大脇哲生)

■第2回野外セミナー・レポート 平成13年12月6日
「東京湾野鳥公園と自然復元事業」

 「東京湾野鳥公園」において行われた野外セミナーは、まず午前中に、ネイチャーセンターで、(財)東京港埠頭公社公園事業部の金田哲男管理課長から、埋立地の自然復元として、この公園ができあがるまでの詳細を資料やビデオなどに基づき解説していただき、午後からは、管理と自然解説を担当している(財)日本野鳥の会のレンジャー篠木秀紀氏の案内で野外観察を行った。野外では、越冬のために北方から渡ってきたカモ類を中心に説明を受けた。
 2000年、東京湾野鳥公園はシギ・チドリネットワーク(注1)の登録地になった。このような登録地は、通常は現存する自然豊かな場所が保全され登録される。しかし、東京湾野鳥公園は東京湾の埋め立て地に造成された、人工的な野鳥公園である。私はここが人工的に作られた公園だとも知らずに参加したので、「人工的な公園が、渡り鳥の中継地として国際的に重要な場所として機能するなんて」と、びっくりした。
 開発事業等により、豊かな自然は減少の一途をたどっているが、これからは自然の復元が求められるようになるであろう。復元の仕方次第では大きな効果が得られるという見本を見ることができ、貴重な体験になった。セミナーでは、東京湾野鳥公園が登録地になるまでの自然復元事業の過程、現在の状態、問題点等を聞くことができた。とくに問題点は、今後私たちが携わるであろう自然復元事業へ大きく反映させることができると思った。
 余談であるが、私は1998〜2000年の2年間、青年海外協力隊員としてフィリピンのオランゴ島野生動物保護区で生態調査という職種で活動していた。この保護区は、東京湾野鳥公園と同じくシギ・チドリネットワーク登録地であり、かつラムサール条約(注2)登録地でもあって、同じ渡りのルート上に位置する。かつてフィリピンで観察していた鳥たちがここを経由して来ていたのかと思うと、非常に感慨深かった。
(注1)「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」
(注2)「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」

(レポーター:(株)アイ・エヌ・エー 實 三英子)

NEXT >>>



TOPに戻る