活動報告

セミナー・レポートサマリー 99


■第3回 定例セミナー・レポート 平成15年3月10日
「自然再生推進事業と環境アセスメント技術者の役割」

講師:
東京大学名誉教授(自然環境共生技術フォーラム会長) 高橋 裕

 平成14年12月に公布された「自然再生推進法」成立の背景、自然再生事業、釧路湿原の河川環境保全、標津川の蛇行復元などを中心に、高橋先生の講演をいただいた。
 この3月、京都、滋賀、大阪で開かれた「第3回世界水フォーラム」の話題から始まった。日本では大きく取り上げられていないが、世界的に水の問題は重大なものである。
 「自然再生推進法」の内容に関しては、同法に基づく自然再生事業で画期的なのはNPOが計画段階から事業に参画できることであると強調された。
 自然再生事業の第一号が釧路平野である。釧路湿原では、農地・宅地開発などによる湿原の直接的な改変が進行するとともに、河川の直線化などによる土砂・栄養分の流入、乾燥化にともなうハンノキの侵入が起こり、湿原の消失・劣化が進んでいる。これに対し、湿原の現状を維持することを目標に、湿原の再生、野生生物生息生育環境整備、土砂流入対策等が行われている。
 次に治水の問題について話があった。明治以来、わが国では、川の水をなるべく早く海に流すことを考え、直線的な川がつくられてきた。その結果、河川生態系の破壊や河川景観の悪化を招いた。しかも、流域の開発により遊水池の機能が損なわれ、洪水の規模は一層大きくなっている。このため、明治以来の方針が転換されつつある。
 なかでも印象的だったのは、「自然再生といっても、人工が全く入らない訳ではない。周りの自然と調和し、人々に楽しまれるようにすることが大切である。日本特有の景観、とくに長い秋の風景を大切にする必要がある」という指摘である。
 技術者は、かつてのように、速やかに、安価に、効率の良い構造物、施設を造りさえすれば良い時代ではなくなってきた。何のためにつくるのか、建設するとそれが周辺の自然および社会環境に対し、長期的にどういう影響を与えるかについて、深い洞察が求められている。
(レポーター:(株)大林組 太田 昇)

■第3回 定例セミナー・レポート 平成15年3月10日
「土壌汚染対策法の概要と今後の展望」

講師:
環境省環境管理局水環境部土壌環境課 課長補佐 長坂 雄一

 われわれが生活している足もとには、必ず土壌が存在する。土壌は、岩石等の鉱物が細かく砕かれたところに、植物が生育し、植物を餌とする動物が集まり、それらの糞や遺体などの有機物が集まってできあがっている。自然生態系にとって、欠かすことのできない要素の一つであり、生態系ピラミッドの底辺に位置し、生態系の豊かさを支えていると考えることができる。
 つまり、生態系保護に関しては、土壌の重要性に対する認識が必要であり、土壌を保全することは、生態系を保全することにほかならない。土壌汚染は、高度経済成長期を中心に古くから発生していた公害であるが、近年になって、環境に対する人々の意識の高まりとともに、発覚することが多くなっている。人々の注目度が高まるとともに、さまざまな土壌汚染の判明事例が増加し、環境保護の立場からも、土壌汚染対策のルール確立が求められるようになった。そのような背景から、2002年2月に「土壌汚染対策法案」が閣議決定され、5月には国会で可決・成立、2003年2月15日から施行されるに至った。
 土壌汚染対策法の目的は、国民の健康保護であるとされる。また、同法の内容は、健康被害を生ずるおそれのある25の特定有害物質に一定の基準を定めるとともに、土壌汚染状況調査、指定地区の指定、指定地区台帳作成、健康被害の防止措置の実施などが盛り込まれている。土壌汚染対策法で指定されている物質は、すべてわれわれ人間が、自分たちの生活を豊かにするためにつくりだし、利用してきた物質である。どうして今頃、という気がしないでもないが、今後、この法律が発効することで、われわれの生活環境が安全で、健康なものになると同時に、健全な土壌による自然生態系が構築されることによって、生物多様性の高い環境が保たれ、生物種としての人間の安全な生活環境が確保されるのだと考えられる。
(レポーター:(株)建設技術研究所 野中俊文)

■技術士第二次試験受験講習会(東京会場) 平成15年5月15日
「技術士法改正、新たなチャレンジ」

 今年度の「技術士第二次試験受験講習会」が開かれた。講習は、建設部門(建設環境)、環境部門および総合技術監理部門のほか、今年度は農業部門(農村環境)が新たに加えられ、合格者からの体験談を中心にした講義であった。
 参加者は30人弱。技術士法改正にともなう経過措置期間が過ぎ、今年度から一次試験通過者しか受験できなくなったことが、受講者が減少した主な原因と思われた。そのためか、参加者は比較的若い人が多く、なかには複数目の技術士を目指す人や総合技術監理部門を目指すと思われる参加者も散見された。
 私は、講師の一人として参加し、長年失敗し続けてきた経験者として、失敗談を基本に話をした。その他の講義は、また新たなチャレンジをするつもりで拝聴した。各講師とも、基本的なことは類似した内容であったが、経験的な事柄などでは各講師の個性が随所に現れ、さまざまなチャレンジ法があるのだと実感できた。
 とくに、印象に残った講義内容等は、以下のとおり。

過去問題を基に論文を作成したあと、使用した資料は今後も参考書となる。

JEASニュースは最も良い参考書である。

JEASの研究会等に積極的に参加し他社の技術士等から刺激を受けるようにした。

準備は普段の業務のなかですることが大切。特別なことをしても、化けの皮がはがれやすい。

日頃の業務で問題点や課題、解決法等を意識して行うことが技術士への近道。

受験する部門の内容や目的を常に意識しながら答案をまとめる。

五肢択一問題による足切りはないと思われる。

挿入する図表は出来るだけ簡潔にし、一目でわかるように工夫するとよい。

個条書を上手に使用すると、丸暗記しなくとも論文は書ける。
(レポーター:環境科学(株)瀬野直人)


2年の経過措置を終えた技術士試験
編集委員・新里達也

 技術士試験は平成12年に技術士法が改正され、翌13年から新しい制度のもとで実施されている。
 新制度のうち私たち受験者にとって重要な変更点は、一定期間以上の技術業務経験を有する者が受験資格を持つ旧制度に対して、新制度のもとでは、原則的に第一次試験合格を経ない限り、第二次試験を受験することができなくなったことである。この新制度導入にあたる経過措置が取られた平成13・14年度の2年間は、旧来通りの業務経験による第二次試験受験が可能であったが、その期間が終了した本年度からは、第一次試験合格が第二次受験の必須要件となっている。
 新制度にともなう変更は受験資格だけではない。新部門「総合技術監理」が設立されたほか、第一次試験の実施要領が大きく変更され、旧制度に比べて明らかに難関になったことである。その意味では制度の「改正」に対する疑問の声もささやかれている。
 新制度の第一次試験は、すべて5肢択一形式の出題で、実質6時間に及ぶ試験である。4科目から構成され、技術倫理を問う「適性科目」、当該技術部門の専門知識の「専門科目」、科学技術の基礎知識に関する「基礎科目」および理科系学士水準の基礎知識の「共通科目」からなる。なお、大学(理科系)卒業者以上の学歴者および科学技術の国家資格を保有する者は、共通科目が免除され、3科目を受験する。また、過去に一次試験合格を経ずに、いずれかの技術部門の二次試験にすでに合格している者は、同一の技術部門を受験する場合は適性科目の1科目、他の技術部門を受験する場合は適性科目と専門科目の2科目をそれぞれ受験すればよい。
 制度が実質的に刷新された本年度は、受験申込者数にも大きな変化が認められる。第二次試験受験資格を持つ第一次試験合格者は現時点では当然ながら少なく、今年の第二次試験受験申込者数は9千人を割り込む少なさであるらしい(昨年は6万3千人)。一方これに比べて、本年の第一次試験受験申込者は6万人(昨年は3万4千人)を超えたともいわれている。
今般の不安定な社会情勢を反映してか、資格取得に対する一般の熱意は非常に高く、技術士人気は当面とどまることを知らないようである。




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