活動報告

支部報告 106

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■関西支部 第3回セミナー・レポート 平成16年12月3日
「雨を活かす−ためることから始まる」

講師:雨水利用を進める全国市民の会 事務局長 村瀬 誠

 以前から、雨水利用には個人的に興味があった。夏場は庭の木々への水やりのため、水道代が高くなる。かつて、市販の雨水タンクの購入について嫁さんと相談したことがあるが、値段が高いとあっさり却下された。しかし私としては、ウィスキーの樽を雨水タンクとしてやっと完成する、狭いが風格のあるわが家の庭の構想を諦めたわけではなく、本日の村瀬先生のお話は嫁さんを説得する材料になるなと期待していた。
 村瀬先生のお話では、現在の東京では年間1,500mm の降雨のうち、蒸発する量が400mm、地下に浸透する量が300mm、海へ流れ出る量が800mm とされている。今後、地球が温暖化すれば、雨の降り方が極端になると言われている。いったん降れば多量の降雨となり、かと思えば雨が降らない日々が続き、総雨量としては減少すると予測されている。
 そこで都会での公共施設を含むビルの地下に雨水の貯留タンクを設置した場合の効果としては、1)将来予想される極端な降雨により発生すると考えられる都市型洪水の防止、2)全体としての雨量の減少による渇水時の水資源としての有効利用、B安全な飲み水の確保があげられる。ダムを造らなくても、各個人や各自治体などで雨水タンクを設置し、降ってすぐ海に流れ出る水を貯めておけば水の有効利用ができる。将来、個人が水を確保する手段としても有効である。
 今から家を建てる計画をお持ちの方は、家の地下に貯水槽を設置することを検討してみてはいかがだろうか。風呂、便所、洗濯の水、さらには飲み水にも利用できるそうだ。家の屋根にはソーラーパネル、地下には雨水の貯水槽。究極の省エネ住宅というのも良いのではないだろうか。
(レポーター:(株)環境総合テクノス 藤田 仁)


■関西支部 第3回セミナー・レポート 平成16年12月3日
「環境保全のための宗教の役割」

講師:仏教大学社会学部社会学科 教授 溝口次夫

 環境と宗教、これらの接点が当初私には分からなかった。しかし、自然と宗教・思想・哲学のかかわり方に基づいた自然環境と人間生活、21世紀のライフスタイルのあり方についての講演に引き込まれた。
 自然に対する東洋的思想と西洋的思想の違いについてお話しいただいたが、東洋的思想は“自然との共生(ともいき)”であり、西洋的思想では“自然を支配”とのことであった。
 この違いに着眼すると、自然環境に対しては東洋的思想を有する国の方が環境先進国であると考えられる。しかし実際には、西洋的思想を有するヨーロッパ諸国にはスウェーデン・ドイツのような環境先進国といわれる国が存在し、東洋的思想を有する日本はこれらの国々に比べ、自然環境に対する意識・取り組みが優れているとはいえないようである。この原因の一つとして、教授は東洋的思想の根源となっている、佛教の精神が生かされていないことをあげられた。
 一方、儒教思想が浸透している韓国では環境に対する意識が高い。これは、本セミナーにおいて紹介された環境保護に関する調査に基づいたものであるが、改めて日本人の環境に対する行動力の乏しさ(人間活動を抑制する意思の弱さ)を痛感した。
 自然環境を保全するには、汚染物質を削減する技術の開発・実用化を図るとともに人間活動を抑制する必要がある。前者は環境問題が顕在化してきてから積極的に取り組まれているが、後者はまだ十分ではない。教授は、この問題を解決するために、「既存の環境保全型科学技術の推進に加え、宗教・哲学を背景とした、精神的な豊かさを求めるアプローチ(経済活動を抑制しても環境保全を第一に考えること、自然の恵みに感謝すること)」が必要であると提言された。
 本セミナーの結論(未来への提言)として、精神的な豊かさを求めるアプローチの必要性を提言されたが、これを噛み砕いて表現した言葉が心に残った。すなわち、1)「もったいない」の気持ちを忘れないこと、2)「足るを知る」の心をもつことである。今後、これらの言葉を忘れず環境問題に取り組んで行きたい。
(レポーター:国土環境(株)高尾 彰)


■北海道支部 第2回技術セミナー・レポート 平成16年12月3日
「エゾシカ被害の現況と管理計画」

講師:北海道環境科学研究センター 主任研究員 梶 光一

 近年、北海道において、エゾシカは分布域を拡大しながら生息数を増加させている。その結果、道東地方を中心に農林業被害が急激に増加し、深刻な社会問題となっている。
 野生動物の個体数管理は、理想的には絶滅も増え過ぎもせず、できる限り適正な水準に維持することである。しかし、野生動物の生存率や繁殖率などは環境とともに変化するので、個体数の情報を正確に把握することは困難である。そのため、北海道では各種のエゾシカ調査(ライトセンサス、ヘリコプターセンサス、農林業被害額など)から得られた「個体数指数」によって、総合的に個体数の増減を把握するよう努めている。また、常にモニタリングを行い、その結果に応じて、捕獲圧を調整するフィードバック管理を採用している。さらに、エゾシカの生息状況や、人間活動とのあつれきの度合いなどに応じて、地域ごとに、個別に保護管理の目標ならびに手法を定めている。
 このように、北海道のエゾシカ保護管理計画は、具体的な数値を管理水準とし、また、順応的に管理を行うなど、わが国では先進的なものであると考える。それにもかかわらず、エゾシカの個体数を目標水準まで下げることができていないのが現状であり、野生動物の個体数を適正水準に維持し、管理していくことの難しさを実感した。
 今後は、「狩猟者の確保」「狩猟後の残滓処理と希少猛禽類の鉛中毒の問題」「知床など保護区における管理」「資源としての有効利用」など、社会的な問題もクリアしていく必要がある。そのためには、行政、各方面の研究者、狩猟者などさまざまな立場の人々が連携して知恵を出し合い、エゾシカの保護管理についてさらに検討を重ねていく必要があると考える。
(レポーター:(株)エコニクス 米田 豊)


■北海道支部 第2回技術セミナー・レポート 平成16年12月3日
「トド資源の現況、被害状況と共存への道筋」

講師:(株)エコニクス 研究員 磯野岳臣

 北海道におけるトド資源の現況、被害状況と共存への道筋について、ご講演をいただいた。
 あまり知られてはいないが、冬期、北海道沿岸には数百頭のトドが来遊する。トドはオスで体重1t近くになる動物であるが、このような大型野生動物が数百頭も見られることは驚きでもあり、また大変貴重なことだと思われる。
 トドは鰭脚類アシカ科トド属トドに分類され一属一種をなしている。分布域は日本からカリフォルニアにかけての北太平洋縁辺であり、近年は個体数の減少が報告されている。アメリカ、ロシアでは本種を絶滅危惧種に指定しており、日本でも水産庁が希少種に指定して保護へ向けた取り組みを行っている。
 しかし一方で、トドの来遊域では深刻な漁業被害が発生しており、トドの絶滅を真剣に願う漁業者がいることも事実である。トドはスケトウダラ、マダラ、コマイなどを摂餌するが、これらは漁業対象種であるため各海域で10億円を上回る漁業被害が発生している。その被害は、道央日本海では刺し網を営む漁家に集中しており、被害対策として行政機関および研究機関は生態調査や強化網開発などを実施しているが、いまだ被害防除につながる有効な生態的知見は得られていない。したがって、漁家は現在のところ猟銃による駆除に頼らざるを得ない状況にある。
 駆除にあたっては、漁業法に基づき十分な管理を行っているが、実際の駆除数に関しては不透明な部分が多いとのことである。
 また、世界遺産への登録を目指す知床地区では、トド保護のために国際自然保護連合からスケトウダラの禁漁を求められているが、これは環境省の「漁業への影響はないこと」とする方針と矛盾を生じるため、登録の是非を左右しかねない状況となっている。
 今回の講演を聴いて、人とトドのかかわりが転機を迎えていることを実感した。現段階では、トドを管理する事業主体および管理方針はあいまいなままであるが、今後、人との共存を念頭におき、多くの関係者を含めた、広範な取り組みに発展することを期待したい。
(レポーター:(株)ドーコン 辰巳健一)

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