活動報告

支部報告 117
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■関西支部 野外セミナー・レポート 平成19年11月1日・2日
瀬戸内海の環境を考える


 今回の関西支部野外セミナーは、「瀬戸内海の環境を考える」と題し、講演と見学・散策を組み合わせた非常に興味深いものであった。行程は、広島駅から呉市を経由し、四国・松山へ向かい宿泊。2日目は再びしまなみ海道を渡り、風光明媚な瀬戸内海を眼下に見おろしつつ福山・鞆の浦を目指す、というものであった。

(1) 沿岸海洋の環境問題と保全への取り組み−瀬戸内海を中心に−

 セミナー初日、まず広島県呉市にある(独)産業技術総合研究所中国センターにて、湯浅一郎沿岸海洋研究グループ長より、「沿岸海洋の環境問題と保全への取り組み」というテーマの講演を拝聴した。それによると、瀬戸内海は入り組んだ複雑な地形を持ち、日本では最大の内海であっても世界的には五大湖で2番目に小さいエリー湖とほぼ同じ大きさで、環境負荷の大きい海である。瀬戸内海では、海面埋め立てによる浅場の消失があり、また海砂利採取に起因する地形の変化によって海生生物の産卵・生育の場が失われている。その他にも、富栄養化・貧酸素化による赤潮の発生、冬季の最低水温の上昇にともなうクラゲの大量発生・アサリの減少等の事象が起こっている。現在瀬戸内海では、鉄鋼スラグを用いたアマモ場造成や流況制御等の環境修復への取り組みがなされており、生物種の回復傾向が見られるようになったとのことである。また、同センターでは、アマモ場造成のため、アマモ種子の流失を抑止する播種法や高炉スラグの人工アマモ場基盤材への適用について研究しているそうである。講演後、同センター内の瀬戸内海大型水理模型を見学させていただいた。模型の縮尺は、水平方向・鉛直方向それぞれ1/2000・1/159であり、それらの縮尺にねじれがあるものの、鳴門の渦潮も見られ、瀬戸内海の各条件に応じた流況が再現されていた。また、染料を用いることで工場排水等の流出過程もシミュレートできるとのことである。

(2) 安定同位体比を用いた環境化学物質の生物濃縮過程の解析

 セミナー2日目、愛媛大学農学部竹内一郎教授による「安定同位体比を用いた環境化学物質の生物濃縮過程の解析」についての講演を賜わった。本講演は、従来の「喰う−喰われる」関係の相対的な分析による研究ではなく、環境化学物質と窒素安定同位体比(δ15N)を測定することで環境化学物質の生物濃縮特性を解析する、というものであった。その報告によると、PCBs、DDTsおよび有機塩素化合物は生物濃縮があり、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類や多環芳香族炭化水素(PAHs)等は生物希釈する傾向がある。また、微量元素(21種)のなかではセレン(Se)、ルビジウム(Rb)、水銀(Hg)は生物濃縮する傾向が見られたそうである。
安定同位体比を用いることによって、対象生物の食性が変化に富む“Mixing”が起こり、また成長段階で餌生物(食物)が変化しても、栄養段階の数値化が可能となる。したがって、各環境化学物質の生物濃縮特性が明確に分かりやすく比較検討できるようになると大いに期待される。
本セミナーでは、上記の2つの講演だけでなく、瀬戸内地方の近代化の足がかりとなった造船業の集大成ともいえる『戦艦大和』にまつわる歴史の品々が展示されている「呉市海事歴史科学館 大和ミュージアム」の見学、また港を横切る道路と駐車場建設のために埋め立てをともなう橋の建設が計画されている、歴史的・文化的にも価値の高い福山市・鞆の浦の散策等も実施された。
このように、瀬戸内海で起こっている環境問題を、科学的側面のみならず歴史的にも学ぶことができ、さまざまな環境問題を多方向から考えて解決すべきということを実感した有意義なセミナーとなった。
(レポーター:(株)日本総合科学 山本貴子)


■中部支部 野外セミナー・レポート 平成19年9月5日
桶ヶ谷沼、サッポロビール静岡工場のビオトープ園見学会


 静岡県磐田市の県自然環境保全地域に指定されている桶ヶ谷沼と、焼津市にあるサッポロビール静岡工場ビオトープ園の見学会を9月5日に実施した。
最初の見学地である桶ヶ谷沼に向かう貸し切りバスの車内では、佐藤支部長の挨拶の後、アジア航測(株)松沢氏による「桶ヶ谷沼・鶴ヶ池の環境とトンボについて」と、(株)テクノ中部櫻井氏によるビオトープの説明があった。
桶ヶ谷沼ビジターセンターに到着後、細田所長から、桶ヶ谷沼が自然環境保全地域の指定からビジターセンターが開設されるまでの経緯と地域の概要説明があり、「保全地域は、人間の関与がない自然のままの姿が本来である。」との言葉が印象的であった。この地域は、全国有数のトンボの楽園として、また絶滅危惧種のベッコウトンボの生息数が多いことでも有名であり、多くの野生生物の生息地となっている。松沢氏の案内で、桶ヶ谷沼・鶴ヶ池に敷設されている遊歩道を散策しながら、沼や動植物の観察をした。遊歩道以外の場所への立ち入り規制や、動植物の採取禁止等の保護活動が自然の保全に有効かつ重要であることを感じた。時季・天候の影響なのか、見ることのできたトンボの種類は多くはなかったが、キイイトトンボや珍しいベニイトトンボ、コバネアオイトトンボ等を見ることができた。
午後からは焼津市に移動し、サッポロビール静岡工場のビオトープ園を、工場係員の説明を受けながら見学した。同工場のビオトープ園は、工場の雨水調整池として機能している緑地をそのまま生かした自然共生園であり、平成10年に開園した。ビオトープ園はA、B、Cの3ゾーンで構成されており、Aは自由な散策ゾーン、Bは植裁による野鳥休息ゾーン、Cは自然に近い形で保全された野生生物の繁殖ゾーンという構成内容で、生物の生息空間と、緑地としての機能を兼ね合わせており、たいへん参考になるものであった。最後に工場内の生産工程の見学を行い、帰路に着いた。
(レポーター:(株)環境公害センター 金田哲夫)



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