活動報告

支部報告 125
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■関西支部 第1回技術セミナー・レポート 平成21年9月7日
生物多様性の現状と民間参画ガイドラインについて

◆生物多様性民間参画ガイドラインについて
講師:
環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性地球戦略企画室 主査 廣澤 一

 8月20日に公表された生物多様性民間参画ガイドラインは、生物多様性の維持や保全を評価する人が80%に達するにもかかわらず、その認知度は35%と低いことから、事業者等が生物多様性の意味を理解したうえで自主的な活動を行うための指針として作られたとのことである。
 指針の説明に続いて、生物多様性に関し、3つの多様性(生態系、種、遺伝子)と4つの危機(自然生態系・種の消失、里山環境の変化、外来種の増加、地球温暖化)及び4つの恵み(水・土壌などの生存基盤保持、食料・医薬品の供給、地域性のある文化の育成、防災など居住環境の確保)について解説があり、理解を深めた。
 全体の話を通じて、生物多様性とは「多くの生き物がつながりあっていること」であり、人間はそれが作り出す「生態系サービス」の恩恵を受けて生活していることを理解したうえで、そのシステムを維持する努力が必要であることを再確認させられる講演であった。


◆日本の水辺―シーボルトコレクションから見る水辺の原風景―

講師:
近畿大学農学部環境管理学科 教授 細谷和海

 シーボルトは江戸時代末期のオランダ人で、地図や書画・文書ばかりでなく、膨大な生物標本を収集した。その標本は、現在ライデンの博物館にシーボルトコレクションとしてかなり良い状態で保存されており、細谷教授はそのコレクションについて研究をされている。講演では多数のスライドを用い、人魚のミイラから絶滅した和金まで、多種多様な標本が紹介された。
  シーボルトは一度長崎から江戸に出ており、その細かな記録が「江戸参府紀行」(平凡社)として出版されているが、その紀行文と標本をつきあわせてみると、大阪・琵琶湖周辺で採集されたものと長崎在住中に九州北部で収集されたものが分離でき、当時の地域的な分布が推定できるとのことである。
 細谷教授は日本の水辺の「原風景」をいつに求めるかという中で、保全遺伝学、保全生態学に加えて「保全分類学」を提唱している。これは、ある種の生息場所を回復させるのに、文化的背景を考慮する必要があることを意味する。たとえば、原風景を明治時代に求めても、周辺の人間生活環境とのギャップが大きすぎ、維持は困難である。おそらく、昭和30年代が求めるべき目標かもしれない。120年前の標本から、そんな情景が思い描かれた。


◆陸域の生物多様性評価に係わる植生調査手法と解析結果

講師:
兵庫県立大学自然・環境科学研究所 教授 服部 保


 兵庫県では今年3月に戦略を策定し、神戸市、明石市なども現在検討中である。しかし、市レベルで生物多様性戦略をつくると言っても、情報や技術が十分とはいえない。服部教授からは「日本環境アセスメント協会に所属する諸君こそ、市に対して提案や技術の提供を行うべきである。」と心強いお言葉をいただいた。
 環境影響評価に係わる生物多様性の指針では「●現況調査の方法→記載なし、●予測項目→多様性に及ぼす影響の評価、●保全目標→保全しなさい」と具体性に欠ける。
 服部教授は、これまで定性的にしか捉えられなかった植生調査も、少しの工夫(被覆度の%表示、単位面積当たりの出現頻度など)で定量性を持たせることができると事例をあげて説明し、「多様性評価を可能な限り定量データに基づき実施することで、より多くの人の理解と共感を得るものとしてほしい」と締めくくられた。
(レポーター:(株)環境総合テクノス 十亀 清)

■第2回野外セミナー・レポート 平成21年9月10日・11日
東北地区現地見学会

 今回の野外セミナーは、東北環境アセスメント協会との共催で行われた。以下は、この2日間の野外セミナーに参加してのレポートである。

蕪栗沼 化女沼 人工湿地システムによる水質浄化実験地
蕪栗沼 化女沼 人工湿地システムによる
水質浄化実験地

●第1日目

 午後には、東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターにおいて「人工湿地システムによる水質浄化(高度処理)実験地」を見学した。ここでは、中野和典准教授より、この実験の意義について詳しく解説していただいた。この手法は、下水処理の代表的手法である活性汚泥法と異なり、湿地を設置し好気状態のままで汚染物質を吸着し、バクテリアの作用で分解するというメカニズムである。このシステムの特徴は、低炭素化が実現できる点にある。その後、実際に人工湿地に行き、汚濁水(牧舎からのもの)が浄化システムを段階ごとに通過するたびに浄化されている状況を数十分程度のなかで要領よく実験していただき、実際にシステムの有効性を確認できた。
 このシステムは、もう少し試行を重ね土壌自体がどれくらいの耐用性があるか(原理的には無限)等について確認できれば、運転のためのエネルギーがごく少ない利点があるので、非常に有用なシステムであると思った。
 その後、花渕山バイパス計画地の現地踏査を行った。強風のため、鳴子峡遊歩道へは入れなかったものの、国道沿道からのクマタカ営巣木の確認、国土交通省の事務所からのルート付近の確認などができた。このクマタカの営巣木は国道から至近距離にあり、常にクマタカを確認できるこのような場所でも営巣するのかという驚きを感じた。

●第2日目

 2日目の最初の見学地は、1985年にラムサール条約登録地となっている伊豆沼・内沼である。ここでは、宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンターを訪問し、(財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団の嶋田哲郎主任研究員に伊豆沼・内沼、蕪栗沼などの周辺におけるマガンの生息数の変遷などについて説明していただいた。嶋田氏の研究成果を紹介していただいたが、マガンの総数が一旦減少したものが回復してきたこと、その回復状況と落穂の状況(コンバインとバインダーの割合の変遷など)との関連があること、最近では、落穂がなくなったあとは大豆に頼っていることなどを解説していただいた。
 なお、内沼自体は夏のハスの花の最盛期が過ぎ、マガンの到来までまだ間があることから、ちょうど何もない時期であるとのことであったが、センターの展望台からは、伊豆沼全体が見渡せ、すがすがしい景観であった。
 その後蕪栗沼へ移動し、蕪栗ぬまっこくらぶ副理事長の戸島潤氏に現地で解説していただいた。この蕪栗沼は、マガン、オオヒシクイの越冬地として有名である。2005年にラムサール条約登録地となっている。沼だけでなく、復元湿地や広く周辺水田を含めて登録がなされた。最近では、これらの水田において、ふゆみずたんぼの取り組みがなされている。当日は天気もよく、蕪栗沼周辺のミズアオイの花が満開(少し過ぎたか?)で、湖面周辺が紫色に染まっていた。
 この野外セミナーの最後は化女沼である。ここは2008年10月にラムサール条約湿地に登録された地点である。この沼はもともとかんがい用溜池として維持されていたが、1995年に洪水調節と農業用水目的にダム堰堤が建設された。もともと水生植物が豊富なところで、ヒシクイ、マガン、オオハクチョウなどの重要な越冬地となっている。湖面の規模自体は小さいものの、水生植物の繁茂する状況と湖面の状況を見ると、越冬地として最適の環境であることが確認できた。

●講演:「生物多様性と企業」

講師:足立直樹氏((株)レスポンスアビリティ)

講演内容は以下のとおりである。
 1.生物多様性とその現状
 2.生物多様性と生態系サービス
 3.生物多様性と経済
 4.生物多様性は経営上の課題
 5.リスク管理のために本業で取り組む企業
 6.生物多様性をビジネスチャンスにする企業
 7.アジア各国の動き


さらに、まとめとして以下のことが強調された。
・あらゆる企業は生物多様性や生態系サービスに依存し、大きな影響を与えている。
・企業活動が悪いのではない。適切な配慮をすれば、持続的に利用が可能。
・持続不可能な石油文明から、持続可能な生命文明へ。
・そのスムーズな移行を支えるのが自然科学

この講演の内容は、われわれ環境に携わる技術者にとって印象的であり、生物多様性と企業活動についての接点に着目したものであった。主として生物多様性と経済面の視点が多く、生態系サービスの莫大な付加価値についての説明があった。また、CDMに対峙してのGDM(Green Development Mechanism)という仕組みについての紹介があり、非常に新鮮であった。
(レポーター:パシフィックコンサルタンツ(株) 加藤辰彦)

■中部支部 野外セミナー・レポート 平成21年10月20日
里海と里山の開発と保全を考える


 標題の事項をテーマとして、「藤前干潟」及び「設楽ダム建設予定地」を対象にセミナーを実施した。
名古屋駅からバスで、「藤前干潟」へ。藤前干潟の雄大な景観を見渡すことができる「稲永ビジターセンター」において、ビデオにより概要の説明を受けた後、隣接する「野鳥観察館」に移動し、野鳥を観察。あいにく、干潮時間には少々時間があったものの設置されている双眼鏡を覗くと、海中に立っている棒切れのてっぺんには猛禽類のミサゴ、防潮ブロックの上にはダイサギ、アオサギ、カワウなど、また、少し顔を出した干潟にはカモ類など、肉眼ではとても観察できない多くの渡り鳥等が観察でき、かつてごみ最終処分場建設予定地として話題となったこの干潟が保全された意義を実感した。
 その後、「設楽ダム建設予定地」に移動することになるが、途中、豊川河川事務所KAWAKKO資料館に立ち寄り、予定地内の豊川上流部に生息する天然記念物でレッドデータブックに絶滅危惧種とされている「ネコギギ」の飼育施設を見学し、予定地に向かった。バスが大型であり、ダムサイトまでの侵入は困難であったため、眼下に予定地を見渡せる高台にある駐車場で、設楽ダム工事事務所の長澤宏和課長から建設事業の概要についてご説明をいただいた。その中で、アセスメント調査の結果により、この予定地内には保全すべき動植物が多く存在していることから、特に環境保全のための配慮をしており、そのための費用も相当の額を費やす旨の説明があった。
 再度、バスに乗り、ダムバックウォーター到達地点付近、河川内に設置されたネコギギ生息環境施設を見学し、帰路に着いたが、車中で、急峻な谷を有するこの地が「クマタカ」の生息する環境・条件に合致していることの説明を受け納得するとともに、開発と保全に思いを巡らせることができた貴重な野外セミナーであった。
(レポーター:(財)岐阜県公衆衛生検査センター 小川宗治)

■関西支部 野外セミナー・レポート 平成21年10月15日・16日
熊野の自然再生と天神崎の保全〜南方熊楠の自然観と共に〜

<第1日目>

●南方熊楠顕彰館の見学
 和歌山県田辺市の海岸に近い住宅街の一角に、「南方熊楠邸」と「南方熊楠顕彰館」が隣り合って建っていた。顕彰館は吹き抜けのホールがあり、地元紀州木材を使ったぬくもりを感じる明るい博物館で、熊楠が遺した25,000点もの膨大な資料が収められた収蔵庫には大きなガラスの窓があり、外から中の様子をうかがうことができた。また、顕彰館に隣接する熊楠邸では、熊楠の妻松枝さんの遠縁で南方熊楠顕彰会の理事である橋本邦子さんから、当時の様子を詳しく説明していただいた。熊楠邸の母屋は当時では珍しい木造2階建てで、田辺の町が一望できたとのことである。離れには熊楠専用の書斎があり、縁先の庭には多種の木々が立ち並び、その中には粘菌新属“ミナカテルラ”を発見した柿の木を目にすることができた。
 幼少から天才的で、興味あるものをとことん知ろうとする気質、研究に没頭する様子、世界を駆け巡り研究や交流を深める社交性など、橋本さんのお話にあったエピソードが私の中の熊楠を際限なく広げることとなった。
●玉井先生による講演「熊野の自然とその再生を願って」
 1日目の後半は宿泊先の会議室で、和歌山県の環境アドバイザーで、和歌山県自然環境研究会の会長である玉井済夫先生に熊野の自然について講演していただいた。
 熊野の自然は熊野古道としても世界遺産に登録された近畿地方に残る最後の貴重な原生林である。紀南には自然環境を守る会がいくつもあり、熊楠が歩き網羅した奥深い熊野の森のこと、保存林の保全方法などを紹介していただいた。

<第2日目>

●天神崎の保全活動と自然観察(日和山・天神崎の磯)
 2日目午前中は(財)天神崎の自然を大切にする会の専務理事でもある玉井先生のガイドで、天神崎の一角にある湿地帯を見学しながら湿地保護活動の状況をお聞きし、その後に日和山に登り、最後に潮の引いた磯で磯観察を行った。
 天神崎は熊楠の研究フィールドの一つであり、日本で初めてのナショナルトラスト運動が起こったところである。別荘が建ち並ぶ予定となっていた日和山から田辺湾を望みながら、田辺湾やその周辺の豊かな自然と、汗と努力によりそれらを守ろうとしてきた天神崎の自然保護活動の歴史、ナショナルトラスト運動が現在も継続していることなどを知ることができた。
●鈴木研究員による講演「外来生物(アライグマ)対策の現状」
 昼食を秋津野ガルテンでとった後、田辺市ふるさと自然公園センターで鈴木和男研究員の講義を聞かせていただいた。
 もともと外来のアライグマは現在では本州全土で生息が拡大、和歌山の調査でも急速な広がりをみせており、県内ほぼ全域に広がっているということである。アライグマは人間の生活空間にも比較的容易に入ってくる性質を持っており、食害などの被害が目立つようになっている。その他に、感染するとヒトに重い意識障害や運動障害を起こすアライグマ回虫があり、アメリカでは子供の死亡例も出ていることを知り恐怖を覚えた。早期の捕獲こそが最も有効な対策になり、アライグマ対策の必要性が分かった。
 今回のセミナーを通して、私自身が和歌山県人でありながらこれまで知らなかった奥深い田辺や熊野の自然の豊かさや環境保全の実態を知ることができた。直接的な利益が見えにくいと思われるが、やはり保全活動が必要であることを再認識した非常に有意義なセミナーであった。

天神崎にて 管理型湿地の見学
天神崎にて 管理型湿地の見学

(レポーター:和建技術(株) 戸口協子)

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