活動報告

セミナー・レポートサマリー 102

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■第3回 定例セミナー・レポート 平成15年12月11日
「環境を考慮したまちづくり」

講師:
東京大学名誉教授/(社)日本写真測量学会会長 村井俊治

 戦後の復興期、それに続く高度経済成長期、わが国では急速な工業化とともに国土開発が進められ、国民は物質的な豊かさを得てきた。その反面、公害の発生や自然環境の破壊が顕著になった。村井先生には、自らが経験されてきた戦後の国土開発への反省を踏まえ、「環境を考慮したまちづくり」のあり方について、ご講演いただいた。
 先生は「環境を考慮したまちづくり」のあり方として、(1)あらゆる年齢階層に快適なまち、(2)先住生物と共存できるまち、(3)歴史、文化を守るまち、(4)俗悪な施設、構造物を排除したまち、(5)緑が3分の1以上のまち、(6)車のない場所を確保したまち、(7)空気、水のきれいなまち、(8)自然材料、自然景観を重視したまちづくり、を提言している。
 われわれが望む環境とはどのようなものであろうか。一人ひとりが捉える環境の概念は多様であるが、提言にある「まち」の姿は、まさにわれわれが望む環境を有する「まち」の姿ではなかろうか。
 国民の環境への意識は、従来の環境を「守れ」という考えや「守る」という考えだけでなく、自らが望む環境を「つくる」という意識へと変革しつつある。経済効率優先のまちづくりによって現在の日本が形成されているのは紛れもない事実であり、現在もその傾向に歯止めがかかったとはいえない。物質的な豊かさや生活の利便性を追求する試みは、環境への意識がより高まりつつある今も、昔以上に急速な発展を続けている。昨今「環境を考慮した」あるいはそれに類する言葉が用いられることが多い。それらの言葉に嘘はなかろうが、われわれが本当に望む環境を得るためには、より一層の配慮を行う必要があるのではないか。
 そのためには、まずわれわれ自身がどのような環境を望んでいるかに気付くところから始めなければならない。目先の利益だけにとらわれず、提言にあるようなわれわれが本当に望む環境を有するまちづくりに貢献していかなければならないと痛感した。
(レポーター:(株)オオバ  近藤 太)

■第3回 定例セミナー・レポート 平成15年12月11日
「環境防災調査のための空間計測技術について」

講師:
(株)ソキア システムソリューション部 副部長 岡本和久

 自然環境の現地調査では、さまざまな情報が同時進行で、調査担当者の手作業と職人技ともいえる能力によって得られている。このうち、地図による位置情報の確認や地図上への書き込みは結構面倒で時間のかかるものである。これらの負担が減れば、現地調査もずいぶんと効率的になるであろう。収集した情報の整理が自動的にかつリアルタイムに行われれば、内業の負担と整理までに要する時間も軽減できる。本講演は、このような現場と内業の支援を目的とした、GPSとデジタルカメラによるGIS総合情報収集管理システムの紹介であった。
 システムは、GPSで位置データを、デジタルカメラで写真画像データをそれぞれ収集し、公衆回線などを利用して遠隔地のサーバーにデータを伝送し解析するものである。位置情報と時刻情報がGPSで取得されることにより、正確な時刻と位置情報を有したGIS画像データベースを構築できることが特徴である。現行の現地調査ツールは、現場で持ち回るにはやや大がかりな印象を受けたが、デジカメ付きや歩行者ナビ付きの携帯電話が普及してきた現在、これらの小型化・軽量化・一体化も時間の問題であろう。まだ値段は高めであるが、今後低コスト化が実現できれば、環境調査だけでもさまざまな用途が考案されるであろう。
 GPSの精度が高ければ位置の再現性も高く、経年変化をたどることが容易になるそうである。河川や崩壊地のような地形変化の激しい場所、自然公園のように現地に長期間目印をつけることが、手続き上面倒な場所などにおいてはとくにメリットがあると考える。
 なお、講演当日、講演内容をテープレコーダで録音しようとしたのだが、突然動かなくなってしまった。現場で使うデジタル情報収集ツールの課題もこんなところにあると感じた。現場で電池切れになることもよくあるであろう。太陽電池電源や手動電源などのオプションもあると便利ではないだろうか。
(レポーター:アジア航測(株) 豊田 治)

■第3回 技術セミナー・レポート 平成16年1月23日
「コウモリの調査方法と保全対策」

講師:
NPO法人おおせっからんど 理事長 向山 満

 コウモリは観察が困難であるために生態的知見が少なく、研究課題が多く残された分類群である。本セミナーでは、青森を拠点に東北地方を中心とするコウモリの研究に長年携わってこられた向山満氏をお招きし、コウモリの生態、調査方法および保全対策についてお話をうかがい、さらには人間とコウモリの共存について考える機会をいただいた。
 現在までのところ、環境アセスメントでコウモリを対象に調査を実施した事例は少なく、目視観察や機材を用いた超音波の集音により、その存在は確認できるが、個体を実見できないために種の判別は困難である。効果的な保全対策を実施するには、生息地を特定し種を判別する必要があるが、これには、生息地の踏査や捕獲のために、捕獲申請や夜間調査などさまざまな負担が生じる。コウモリ調査の事例が少ない理由に、調査期間や予算が限定されており、捕獲調査ができないこと、また効果的な調査方法が確立していないことが一因としてあげられる。しかし、コウモリは全国版・地方自治体のレッドデータブックの多くに掲載されており、生息地が開発事業により影響を受ける場合は、保全対策を実施しなければならない。
 向山氏に紹介していただいた保全対策は、(1)コウモリの研究者と共同で、希少なコウモリの生息確認や保全対策を実施していく、(2)コウモリの発する超音波をソナグラム表示することで種を判別するなどがあった。今後は、捕獲をともなわず、コウモリの個体に対する負担が少ない簡易な調査方法の確立が望まれる。
 コウモリはかわいらしい哺乳類である。近年、バットディテクターの導入で観察が容易になり、コウモリ愛好家も増加している。一般に広くコウモリへの理解が普及し、事業実施者と併せて、コウモリ保全への意識向上を期待したい。
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(レポーター:(株)環境指標生物 川村美岐)

■第3回 技術セミナー・レポート 平成16年1月23日
「環境の変化と植生」―生物地球化学的視点から―

講師:
東京女子大学文理学部数理学科 教授 小島 覚

 当セミナーにおいては、複雑な生態系を捉える方法としての生物地球化学について、小島先生に講義をしていただいた。生物地球化学は、生物圏の諸現象を物質動態の視点から捉えようという自然科学の1分野であり、空間的には、地球規模の炭素の循環から、局所的な山間部の沢の中の物質の変化までさまざまなレベルの問題を対象とし、時間的には地球の誕生から生命の誕生、人類の繁栄に至るまでを説明しようという壮大な学問体系ということである。
 今回のテーマは、植生と土壌についてだった。植生と土壌は一体不可分の関係にあり、植生・土壌系を構成している。この系は、気候、土壌母材、地形、生物活動、時間の関数で表されるというモデルがある。この具体的事例がいくつか紹介された。たとえば、尾根部、中腹部、谷底部等の地形的位置の違いにより、土壌の成分が異なり、それぞれの土壌を好む植物がそれぞれの場所に生育する。
 このように、立地条件と植生の関係が明らかになれば、植生から立地条件を診断できる。この考え方を実際に応用して森林管理を行っている事例として、カナダのブリティッシュ・コロンビア州森林局がある。
 最後に、地球温暖化の北方林への影響の予測について紹介された。従来の予測においては、ホールドリッジによるグラフ(地球上の気候とその気候の場所に現存する植生の関係を示す)が利用された。北方林の気候だった場所が、気候変化により、グラフ上で他の植生の領域に移るため、北方林の多くが消失すると予測されたのである。しかし、これは、気候と植生の関係にのみ着目した予測であり、もっと総合的に検討しなければならず、実際には、土壌が急に変化しないため、それに対応した植生も急には変化しないだろうとのことだった。
 講義を受けて感じたのは、やはり生態系は複雑に絡み合っており、総合的な検討が必要だということだった。これに回答を与えようという生物地球化学が発展し、正確な予測評価が容易にできるようになることを期待したい。
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(レポーター:(株)大林組 太田 昇)


■東京都環境局/JEAS情報委員会 意見交換会レポート 平成15年11月28日
「東京都環境局との意見交換会」について

 東京都環境局と当協会との意見交換会は、東京都の環境影響評価制度の充実を目指し、審査担当者とコンサルタントが率直に議論する場として設けられたもので、今回が3回目となる。第1回は平成14年3月に「計画段階環境アセスメントの導入」などについて、第2回は平成15年5月に「調査計画書と評価書案の審査結果(平成14年度分)」等をテーマとして意見交換を行った。
 今回は、東京都環境局の審査担当者8名と協会側から情報委員会委員を中心としたメンバー13名(在京9社)が出席し、東京都側から「事後調査の問題点と対応について」、協会側から都の環境影響評価制度に対する要望について、それぞれテーマを持ち寄り、意見交換を行った。
 東京都は、環境配慮を優先したまちづくりを行うため、事後調査の役割をアセス手続きと同様に重視することとしており、現状の事後調査の問題点を踏まえ、事後調査の進行管理の効率化、アセス関係者の理解協力の促進、審議会との連携強化、事後調査のシステム改善、都民意識の向上に力を注いでいくとのことであった。これに対し協会側からは、現状の発注形態では事業者に対してアドバイスすることが難しいこと、また事後調査においても住民参加を促すような制度的な仕組みが必要なことを指摘した。
 協会側からは、大規模小売店舗立地法や廃棄物処理法等に基づく環境調査と条例アセス制度の手続きが二重化していると考えられること、事業特性・地域特性に応じた柔軟な環境アセスメントの実施、今後多くなるPFI事業における環境アセスメントのあり方について問題を提起し、東京都はその一部に検討の余地があるとの考えを示した。
 このように行政側と直接に意見を交換することは、双方の考え方を理解しあうことができ、ひいては環境アセスメントの制度的充実・技術的向上につながることから、今後とも継続して行うことが有益であると考える。
(レポーター:パシフィックコンサルタンツ(株) 宇田川 学)


■第2回 野外セミナー・レポート 平成15年11月21日
「廃棄物処理・再資源化施設の実稼動事例の見学研修」

 廃棄物処理の最先端技術を研修する目的で、(株)かずさクリーンシステムが、直接溶融により溶融物(スラグ、メタル)の資源化を行っている「かずさクリーンシステム」、東京電力(株)千葉火力発電所が、PCBを含む絶縁油の分解・再資源化を行っている「TEPCO千葉リサイクルセンター」と自然復元型公園の「ビオトープそが」、市原エコセメント(株)が、都市ごみ焼却灰の再資源化を行っている「エコセメント工場」を見学する野外セミナーが開催され、31名が参加した。
 「かずさクリーンシステム」は、収集段階で資源化できないごみの高温一括溶融処理が可能であり、高品位な溶融物として確実な資源化を行っている施設である。ごみ処理工程に沿った見学コースが施設内に用意されており、ごみの受け入れから溶融、再生、施設の管理体制等が一貫した処理フローとして理解できる見学となった。
 「TEPCO千葉リサイクルセンター」は、化学抽出分解法による脱塩素化分解方式を用いた低濃度PCB処理用施設である。広大な敷地の一部に建設された受入棟、分解棟、回収棟を順に見学し、処理工程を理解するとともに、施設内の漏油防止対策などの安全対策についても実感できた。一方、発電所敷地内の「憩いと学びと遊び」をテーマとした自然復元型公園の「ビオトープそが」を見学し、3.5haに及ぶコアジサシの営巣地の保全に関する経験談を興味深く聞くことができた。
 「エコセメント工場」は、都市ごみ焼却灰を主な原料とした、世界初のエコセメント工場として平成13年に稼動を開始した施設であり、千葉県エコタウンプランの中核施設に位置づけられている。現在、千葉県内の50自治体からの都市ごみの焼却灰を使用し、年間7〜8万tのエコセメントを製造しているとのことであった。
 いずれの施設でも、廃棄物の処理技術や処理費用、あるいは建設時のアセスメント手続きなど、幅広い内容に関し活発な質疑応答がなされ、参加者の廃棄物に対する問題意識の高さを改めて認識させるセミナーとなった。
(レポーター:日本工営(株) 前田宣雄)

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