活動報告

セミナー・レポートサマリー 112

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■ 第1回セミナー・レポート 平成18年6月30日
第三次環境基本計画のポイントと持続可能な社会の形成

講師:
福岡大学法学部 教授 浅野直人

 環境基本計画は、環境基本法第15条に基づき、政府全体の環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱を定めるものである。策定の流れとしては、法第15条第3項に従い、環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて案を作成し、閣議決定を求めることとされている。本セミナーでは、平成18年4月7日に第三次環境基本計画が閣議決定されたことを受け、そのポイントについて講演していただいた。
 今回の第三次環境基本計画のポイントはおおむね3点に集約される。1点目は長期視点の導入である。これは、環境基本計画の見直しが5年ごとであることから、第一次および第二次計画とも5年後を見据えた計画であったのに対し、第三次計画は20年〜30年先も見据えた計画とされていることである。また、2点目は指標による進行管理の導入であり、3点目は法第3条の再確認と「人と人との共生」の考え方の明確化である。3点目については、「人と人との共生」が基本にあり、その上で「人と環境との共生」や「人と生物との共生」が成り立つとの視点である。
 第三次計画の重点政策プログラムは、第二次計画での戦略的プログラムの10項目が踏襲されてはいるものの、「重点政策」と表現を変え、かつ一部が整理されている。整理された代表的な箇所は、「環境への負荷の少ない交通に向けた取組」を「都市における良好な大気環境の確保に向けた取組」へと改正した点があげられる。さらに、第三次計画を推進する際の課題として、指標の確実な定着、府省の連携、基本計画の考え方の定着の3点をあげている。
 最後に、印象に残った例え話として、「夏のおふろは沸かしやすいが、一度沸くと温度は下がりにくい」というくだりがあり、地球温暖化を理解するのに参考になった。また、オランダでは、政策立案に環境の概念を上手に取り入れているとの紹介もあった。この点はぜひとも勉強しておきたい。
(レポーター:(株)建設技術研究所 大久保秀一)


■ 第1回セミナー・レポート 平成18年6月30日
主務省令の改正のポイントおよび環境アセスメント制度の運用状況

講師:
環境省総合環境政策局環境影響審査室長 早水輝好

 本講演では、平成18年3月に行われた主務省令の改正のポイント、および環境アセスメント制度の運用状況の現状について講演していただいた。
 主務省令改正の主要なポイントは、(1) 個別の事業に応じたメリハリのある項目や手法選定の強化、(2) 客観性・透明性・分かりやすさの向上の2点である。
 (1) について、項目や手法の選定に関しては、これまでは標準項目が設定されており、ある項目を追加または削除する場合は、その理由あるいは根拠を示す必要があった。その結果、標準項目にとらわれた画一的な調査や予測が多く見られていた。今回の改正では、「標準項目」、「標準手法」をなくし「参考項目」、「参考手法」に変更することで、事業ごとのメリハリのある環境影響評価の実行を目指すこととした。すなわち、標準項目±αで考えるのではなく、一から考え根拠立てることが求められることとなった。(2) について、これまでは根拠が明確でなく説明の筋が通っていないアセス図書も散見されたため、読んで根拠が分かるアセス図書、内容の筋を追うことができるアセス図書を作成するよう指導することが盛り込まれた。
 さらに、講演の最後には、これまでのアセス図書の事例のなかで、充実を求めたい事項や分かりにくい事例についての説明があった。具体的な事例をもとにした説明は、実務者として身につまされる部分もあり、非常に勉強になった。

今後の環境アセスメントに向けての討論

 本討論は、参加者からの質問に対して浅野先生および早水室長が回答や意見を述べる形式で行われた。主務省令の改正に関する質問、事後調査に対する環境省のかかわり方など、今後の課題に関する質問があった。また、アセス実務者であるコンサルタントには環境マインドが求められること、審査側、被審査側ともに、最新の技術を取り入れ研鑽し続ける努力が必要である等の意見もあり、活発な討論が行われた。
(レポーター:日本工営(株) 片柳貴文)


■ 第1回野外セミナー・レポート 平成18年7月11・12日
尾瀬自然観察研修会

講師:
農林水産省大臣官房環境政策課 課長補佐 落合 弘
宮城県田尻町農政商工課・商工観光室課長兼室長 西澤誠弘


●第1日目

 JR上毛高原駅に集合し、吹割の滝、東京電力のブナ植林地を見学しながら尾瀬の玄関口である鳩待峠に向かった。
 小角浩氏(総合科学(株))と安田達行氏(八千代エンジニアリング(株))を講師に迎え、総勢15名で鳩待峠から尾瀬ヶ原を目指した。解説していただきながらの自然観察は図鑑にはない新鮮さがあり、時が経つのを忘れるほどであった。途中の山道ではオオシラビソやミズナラ、林床にはゴゼンタチバナやギンリョウソウをはじめ、標高や地形などの環境要因の違いによる植生の変化を観察できた。
 山道を下り、尾瀬山の鼻ビジターセンターを過ぎると、目の前には神秘的で雄大な尾瀬ヶ原が広がった。今年は遅霜の影響が少なかったため、さまざまな植物の可憐な姿を見ることができた。足下にはミズゴケやナガバノモウセンゴケ、目を少し上にやると風に揺れるワタスゲやニッコウキスゲが一面を覆う。湿原の中に点在する地頭は周りの山々を映し込み、中をのぞき込むとヒツジグサやコタヌキモが揺らぐ。どこに目をやってもさまざまな植物が私達の目を楽しませてくれる。
 山小屋では、小角講師と安田講師に、尾瀬の自然や国立公園についてレクチャーをしていただいた。木道を歩きながら目のあたりにした素晴らしい尾瀬だが、過去には利用者の増加による湿原の踏み荒らしなどの問題に直面したことがあった。その後、木道整備や植生復元といった地道な努力により修復し、現在の尾瀬があることを知ることができた。レクチャー終了後は、環境アセスメントの業務などについてざっくばらんに語り合い、夜が更けていった。
 短い時間ではあったが、自らの足で歩き尾瀬の自然を体感し、そのあり方や利用方法について考えるだけではなく、講師や他社の方と知り合うことができた。ここで得たものを今後の仕事に活かしていきたいと思う。
(レポーター:日本工営(株) 片柳貴文)

●第2日目

 セミナー2日目は雨の音で目が覚めた。早朝の平滑の滝、三条の滝見学も悪天候のため断念せざるを得なかったとのこと、本来の行程もどうなることかと気を揉んだが、出発直前には雨も小降りになり、午前8時前には予定どおり元湯山荘を出発することができた。
 2日目は前日とルートを変え、見晴、竜宮を経由して鳩待峠へと向かった。小角講師より、尾瀬の植物や国立公園の自然環境保全、管理に関する現状の問題点等についての興味深いレクチャーを受けながら、1日目に観察した植物の名前や特徴を復習しつつ、という道行となった。
 雨で足元が悪い状況ではあったが、周囲に広がるレンゲツツジ、ニッコウキスゲ、ツルコケモモなどの花々を目にすれば心も弾む。前日はフワフワした姿を見せてくれたワタスゲが、雨に濡れうなだれていたのは物悲しさを誘ったが、これも自然の摂理であり、われわれはただ受け入れるしかない。今年は雪解けが遅く、植物の丈が例年より低いが、花の咲き具合は抜群であるとのこと。丈は十分に伸びずとも、子孫を残すために花はつける。植物も、毎年必死に種を存続しようとしているのだということを感じた。
 普段、目にする機会が少ない湿原の自然を満喫する一方で、人工施設からの排水等による富栄養化のように、生態系を変化させるほどの影響が生じていることを考えると、もはや人間として自然と触れ合うことは難しいとも感じてしまう。だからこそ、環境アセスメントに携わる意義を自覚しながら業務に励みたいと実感することができ、非常に実りあるセミナーであった。興味深い解説をしてくださった小角講師と安田講師、全行程をお世話してくださったセミナー委員会池田委員長にあらためて感謝したい。
(レポーター:(株)オオバ 和久田晃子)
 

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