活動報告

セミナー・レポートサマリー 117

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■ 第2回公開セミナー(主催:(社)土木学会/共催:(社)日本環境アセスメント協会) 平成19年9月18日
戦略的環境アセスメント(SEA)の展望と課題
◆基調講演:環境アセスメントのこれまでと今後
名古屋大学大学院環境学研究科 教授 井村秀文

 ご自身と環境アセスとの関わりを踏まえ、SEAの現状と課題についてご講演いただいた。SEAの定義は難しいが従前の計画アセスメントの概念より広く、実施には、LCAによる都市インフラ整備の評価、マテリアルフロー分析による地域資源循環の評価、環境政策評価などトータルな予測・評価が必要となる。特に地域環境の予測・評価では、項目毎にバウンダリーの設定を行ったうえでバックグラウンドの把握や事業による波及効果をも踏まえた検討が重要である。


国土交通省におけるSEAへの対応の考え方、PIとの関連について
国土交通省国土技術政策総合研究所 主任研究官 曽根真理

計画策定プロセスガイドラインの研究会の資料をもとにご説明いただいた。対象事業は、河川整備計画などのアセス法対象事業とともに、規模の大きな事業も対象とする。体系としては、計画検討手続き、住民手続き、技術的検討の3つから構成される。複数案は、ゼロオプションも含め関心や論点を考慮した住民間の議論が可能なものとし、評価項目は社会面も踏まえてトータルに検討する。事業者は、計画案の選定の過程、考えなどすべてを明確に説明する。


埼玉県におけるSEAへの取り組みの状況と課題について
埼玉県環境部温暖化対策課 主任 黒岩 努

埼玉県で行われた3つの事例についてご説明いただいた。計画変更が難しい事業アセスの弱点を克服するために検討が行われたが、限りなく事業アセスに近い段階で戦略アセスが行われている。住民の意見は複数案の内容ではなく、事業自体の反対意見が多い。これまでの経験からSEAを行うべき段階は、事業の情報量を考えると事業計画に近い段階が望ましいとのことであった。
(レポーター:アジア航測(株) 細川岳洋)


環境アセスメント実務者の立場からのSEAへの期待について
日本工営(株)地球環境事業部環境部 次長 黒崎靖介

SEAの意義や必要性は広く認識されているが、現行アセスの黎明期にそうであったように、SEAの実際については未だ計り知れないものが技術者サイドにはある。本講演は環境影響評価の実務に携わる立場から、SEAに取り組む基本的な考え方をお示しいただいた。
 SEAで現行アセスと異なりかつ最も重要な点はやはり「複数案の設定」である。本質は“事業計画決定プロセスを明確にしていく”ということであり、手続きのための形式上の複数案設定になってはならない。またその評価については多様な価値観のなかで執り行うことが求められ、従来の科学的見地だけでなく多様な価値観を身につけることが技術者の側にも求められる。われわれ技術者は「クマに注意」的な“決定要因”を絶対に外さない力量が求められる役割なのだと納得した。


総合討論

SEAの実際が未だ不明な現段階においては、やはり手続きに関する事項が大変気になるところである。特に現行アセス制度とSEAがどうリンクしていくのかが現段階ではイメージしにくいが、事例を重ねながら制度としての成熟にゆだねることになるのだろうと思う。
 ここで、コミュニケーション手法としてのSEAの熟度を高めていくことが努力のしどころであろう。現行アセスが“手続き”に重点が置かれコミュニケーション手法として必ずしも十分機能していない点は反省としてある。これがSEAを導入したからといって解決される訳ではないことは、埼玉県の事例紹介からも明らかである。コミュニケーション手法の柔軟な選択が重要になり、実績を重ねたPIの技術を発展的に取り入れるなどして、コミュニケーション形成を図っていくことが求められる。
(レポーター:(株)パスコ 早坂竜児)


■ 第3回公開セミナー・レポート 平成19年10月16日
地理空間情報活用推進に向けた国土地理院の取り組み

講師:
国土交通省国土地理院企画部研究企画官 村上広史


 私たち環境に携わる技術者は、日頃の業務のなかで地図を使って何かを表現したり、解析に用いることが多い。したがって、今後地理情報整備がどのような方向に向かうのか、非常に気になるところであった。
 講演の冒頭に、これまでの経緯と国土地理院による地理情報の電子化と提供状況の説明があった。目新しい情報として、現在電子国土ウェブシステムが600件以上立ち上がっているというお話があった。これは、国土地理院が提供する最新の地形図を背景に、地方公共団体やNPO等が行政情報や観光情報等の地理情報を重ね合わせ、インターネット上でカスタマイズして再現するサイバー国土である。今後、環境教育などでの活用が期待される。
 次に、平成19年5月に公布された地理空間情報活用推進基本法と省令の概要についての説明があった。基本法は、地理情報システムと衛星測位の連携強化、活用施策の総合的推進を目的としている。今後、国土地理院が全国共通の白地図データを基盤地図情報として整備し、インターネットを介して無償提供するが、当面は、地方自治体等から1/2,500の都市計画図(白図)を提供していただき、国土地理院でこれをつなぎ合わせ、ズレ等を修正(シームレス化)し提供する。情報の提供は来年からの予定であるが、将来的には基盤地図の整備・更新は地方自治体に移行し、国土地理院は品質確認・補完的整備の役割を担うとのことであった。これは、日頃さまざまな地図情報を利用している私たちにはうれしい情報である。なお、自治体に期待する部分も、自治体自身で予算化して取り組みを行ってもらう必要があるとのことであった。
 今年の4月に公表されたSEA導入ガイドラインでは、地方自治体に対し地域の環境情報を提供する役割が期待されている。今後は、このような国全体の動向も踏まえた環境情報整備が期待される。
(レポーター:日本工営(株) 佐藤律子)

基本法とJPGISに準拠したデータの流通

講師:
(社)日本測量協会測量技術センターGIS研究所 主任研究員 平田更一


 近年の急速なデジタル化の波は、あらゆる分野に影響を与え、さらに進化し続けている。この流れは、社会資本整備の基盤となる測量技術、そしてこれらの成果である地理情報も例外ではない。本セミナーでは、先の国会で成立した「測量法の一部を改正する法律」および「地理空間情報活用推進基本法(以下、基本法)」の概要、さらには公共測量等に関する最近の動向(「公共測量作業規定の改正」に向けた取り組み)についてご紹介いただいた。
 基本法の成立により、基盤地図情報の整備が期待されているが、この基盤地図情報には技術上のある基準に適合する必要があり、この基準を満たすデータが「公共測量作業規定の改正」に基づいて測量された結果である。
 この「公共測量作業規定の改正」の主な方針として、@多様な測量作業方法の規定、A測量成果の電子化の推進、B地理情報標準への対応、C基盤地図情報整備の促進、があげられる。そのなかで「地理情報標準」は、GISの基盤となる空間データを異なるシステム間で相互利用する際の互換性を確保するためのルール(データの設計、品質、記述方法、仕様の書き方等)として定められており、ISO/TC211(国際標準化機構の地理情報に関する専門委員会)の作業項目を基に刊行されたものである。さらに、「地理情報標準」のうちJIS化された作業項目について体系化し、普及促進のために絞り込まれた実用的な地理情報標準が「地理情報標準プロファイル(JPGIS)」である。
 今後、JPGISに準拠したデータの作成・利用により、空間データの検索や整備、活用など地理情報と関係するさまざまな場面で空間データの交換が自由に行なえるようになる。また、応用スキーマおよびXMLスキーマでの記述をクリアリングハウスへ登録し、新たなビジネスを生むことも可能となる。地理情報標準が当然となる時代を目前にして、更なるJPGISへの理解・関心を深めていきたい。
(レポーター:(株)建設技術研究所 岩間正徳)


■第4回公開セミナー(九州支部共催)・レポート 平成19年10月25日
これからの環境アセスメント 課題と展望

1) 環境政策の今後の方向と環境アセスメント制度の役割
講師:
福岡大学法学部教授 浅野直人

2) 沖縄県における環境アセスメントの動向
講師:
沖縄県文化環境部環境政策課長 下地 寛

3) 対 談

パネリスト:
福岡大学法学部教授 浅野直人
沖縄県文化環境部環境政策課長 下地 寛
(社)日本環境アセスメント協会 会長 栗本洋二



九州支部・セミナー委員会共催の第4回公開セミナーは、沖縄で開催された。沖縄県での開催は平成13年以来であり、特異な生態系を有し貴重な動植物が多く、島嶼で環境への影響を受けやすい沖縄県にとって、環境アセスメントは重要な仕組みであることから、参加された58名の方々からの熱意が感じられた。

(1) 環境政策の今後の方向と環境アセスメント制度の役割

環境政策については、世界におけるエコロジカル・フットプリントや2100年までの温度上昇予測の説明をとおして、持続可能な社会構築の重要性と取り組みの緊急性を再認識するとともに、これをベースとした第三次環境基本計画の目指す方向性を理解した。特に、持続可能な社会の軸としての「低炭素社会」、「循環型社会」、「自然共生社会」相互の関連づけ、環境と経済の好循環による社会構築の重要性については、この実現が環境アセスメントの本質的な目的であることを確認した。
日本における環境アセスメントは、昭和47年の閣議了解により個別事業での評価が行われるようになり、昭和59年の閣議決定によって要綱アセスメント制度として開始した。この要綱アセスが平成9年のアセス法制化(アセス法公布)までに果たした役割と実績は大きく、主に行政機関が事業主体である事業の意思決定にかかる制度として働くことで、意志決定への市民参加機運の醸成や環境配慮を強く意識させることに寄与した。反面、一部で決定を否定するための手段としての期待が存在することとなった。
このことは、法アセスの10年後の現在においても、システム運用面の課題を生み出す要因となっており、課題としては次のものがある。
・方法書制度の形式化の回避
・自然系項目の予測・評価の困難の克服
・定量化が難しい環境政策での配慮事項の扱い
本年4月、戦略的環境アセスメントの本格導入に向けてのガイドラインが策定されたが、これを実践していく際には、この本質的な課題がより大きなものになると思われる。

(2) 沖縄県における環境アセスメントの動向

沖縄県では、国の環境影響評価制度の状況にあわせ、条例を制定して対応してきている。本条例は、評価対象事業の規模要件を厳しくする特別配慮地域の設定や法令対象以外の対象事業の設定などの特徴を有しており、環境の影響を受けやすい沖縄県としての配慮がなされているものである。さらに、新たな環境要素としての風害の追加なども現在進められている改正の検討項目としている。
また、現状の環境アセスでの課題として説明されたアセス図書の質、調査の精度、結果の信頼性について向上が必要であるとの意見には、環境調査・評価を実施するコンサルタントとしては耳の痛いものであったが、的確な情報提供はアセスのベース機能であり、その重要性の再認識と信頼性向上のための不断の努力の必要性を強く感じた。

(3) 対談

当協会の栗本会長からJEASの歴史、役割、課題の説明があり、続いて下地氏より沖縄での自主アセスの状況や赤土問題や条例についての紹介があった。
さらに、アセスへの国(環境省)の関わり方や環境情報のシステム的な共有化など環境行政にかかる率直な提言と意見交換が行われ、有意義な対談であった。
(レポーター:西日本技術開発(株) 石崎 浩)


■野外セミナー(九州支部共催)・レポート 平成19年10月26日・27日
これからの環境アセスメント 課題と展望 新石垣空港建設現場視察


●第1日目

総勢24名、沖縄本島から410km南西に位置する八重山諸島の石垣島へひとっ飛び。50分の短いフライトである。
石垣島の古い歴史が漂う民族資料館で昼食後、一同バスで新石垣空港建設現場へ移動した。
沖縄県八重山支庁新石垣空港建設課金城主幹、呉屋、安座真両主任技師から、新空港の必要性、建設位置選定経緯、工事計画の概要の説明および自然環境の保全を最優先の目標として取り組んでいることが紹介された。なかでも、赤土流出は一滴たりとも海に流さないと力説されていたのは印象深く、環境保全対策になみなみならぬ決意と努力を払っている事をうかがい知ることができた。また、貴重動植物の保全対策として、ハナサキガエル類のビオトープ創出、小型コウモリ類の人工洞の設置、植物の移植試験栽培等について詳細な現場紹介をいただいた。
6年後の一番機が飛行する光景に思いをはせながら、新石垣空港建設現場を後にし、ガイド嬢の三線(さんしん)と島唄(しまうた)をともに、日本最南端の都市石垣市の名勝地、玉取崎展望台、川平湾に立ち寄った後、ホテルにチェックインした。一段落後、当地石垣島の山海の幸と泡盛を手に、参加者一同親睦を図った。遠くは北海道からの参加者もあり、懇親会は和やかに進められた。最後は参加者一同でカチャーシー(沖縄の踊り)を踊り閉会した。

●第2日目

石垣島を発ち、一路沖縄本島へ。那覇空港到着後、次回開催県での再会を祈念し、散会した。今回、自然環境の保全を最優先の目標に掲げて進められている新石垣空港建設現場で、具体的な環境保全対策事例の視察ができ、また石垣島の豊かな自然と文化に触れる事ができたこと、加えて参加者の皆さんと親交を深める事ができ、大変有意義な野外セミナーであった。
(レポーター:(株)沖縄環境保全研究所 崎山幹夫)


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