活動報告

セミナー・レポートサマリー 87


■平成12年度技術士第ニ次試験受験講習会 平成12年5月15日
「技術士論文の書き方、出題の傾向と対策」
 毎年恒例となっている本講習会。来年から技術士試験制度が変更されることから、本年のうちに資格取得を目指す技術者が多いと聞く。そのせいか、当日は予定していた定員にほぼ近い120名近くの受講者が会場に参集し、熱心に講義に聞き入っていた。


■3回の受験で合格を
 新日本気象海洋(株) 新津 誠
 技術士試験は体力・気力の勝負である。3回で合格するように、自分なりの計画に従って受験することをおすすめしたい。7年経験者には、準備3年一発合格を目指してほしい。3つの科目を年に1つずつ準備していって、9年経験で初受験する方法である。
 若い人には隔年受験をおすすめしたい。不合格の発表から、翌年の申し込みまではあっという間の時間である。結局、準備が進まぬまま、次の受験日が来てしまうのである。それならいっそ1年、間を置いて、新鮮な気持ちで2回目の受験に取り組んだ方がよい。
 3回目の受験は、いよいよ合格を目指すときである。まず経験業務を自分で徹底的に添削すること、してもらうことを通して、読みやすい文章を速く書けるよう訓練するわけである。近年のマラソンが高速マラソンといわれるように、技術士が文章を書くのも、持久力と集中力+スピードが欠かせない。これは日常業務のなかで培ってこそ身につくもので、業務の消化が最良の訓練になると考えていただきたい。
 「受験カードは手持ち3枚」と申し上げたが、3枚のカードを使い切った人は、今までの経験全体を受験1回と考えて、再スタートを切ればよい。ただし、心身をリフレッシュするために「何か」を始めること。10年若返った気持ちになって再挑戦するのである。
 「経験論文の十分な準備なくして合格は無し」と考え、4000字1題と2000字2題のいずれの出題にも対応できる準備をしておくこと。これは最小限の準備と思っていただきたい。


■事前に模擬答案の作成を
 (株)建設技術研究所 山田 規世
 建設部門の業務経験問題は、言い回しに若干の違いがあるものの、設問内容はほぼ同様である。平成10年度と11年度を比較すると、「3つを挙げ、その中から1つを選び詳述せよ」(平成10年度)、「2つを挙げ、それぞれについて詳しく述べよ」(平成11年度)というような違いがある。答案用紙は5枚(4,000字)以内なので、どちらにも対応できるように、字数配分を含めた記述ができるように準備をしておくことが重要である。
 選択問題は、Aグループから1つとBグループから1つの計2問について、それぞれ3枚(2,400字)以内に記述することが求められる。Aグループは総論的な環境に関する知識を問う問題が多く、なかでも環境影響評価に関する設問が出題されている。Bグループは個別の専門知識を問う問題である。問題を大きく分類すれば、大気質、水質、動植物・生態系などから出題されており、日常の業務でかかわっているどれかに該当する。したがって、選択問題についてもあらかじめ準備はできるものである。 以上の業務経験問題の2パターンに対応する模擬答案と、選択問題に対応するものをあらかじめ作成し、書いたものをまわりの人に読んでもらって修正・加筆することをおすすめしたい。
 論文については、とにかく自分で書いてみることが必要である。普段はキーボードをたたいている人が多いと思うが、試験は「手書き」なので、時間をみつけて「書く練習」をしておくこともおすすめしたい。


■水産水域環境の出題傾向と対策
 日本工営(株) 長崎 均
 水産部門に水産水域環境が新設されたのは平成6年度からである。ここでは、これまでの出題傾向を整理し、受験対策を述べる。
 水産一般問題は、近年の漁業における課題や問題点の把握を前提として、それに対処するための技術的な課題を問うものが多い。具体的にみると、水産業の発展に寄与するための、資源管理型漁業(平成6年)、今後確立しなければならない技術(平成7年)、水産業の情勢の分析と対処するための技術の現状と将来展望(平成8年)、資源管理・漁獲物の有効利用とつくり育てる漁業について必要とされる方策と技術的課題(平成9年)、水産業の現状と各分野の技術的課題と解決策(平成10年)、各分野の技術的課題および複数分野における対応策(平成11年)となっている。平成10・11年度は、かなり似通った出題傾向であり、今年度の出題確率も高いと考えられる。
 経験問題は、3例の概説を行い、そのうち1例ないし2例について詳述するよう求められることが多い。したがって、一般的な3例の概説・詳述を準備しておき、試験当日には臨機応変に解答すればよいだろう。経験問題は、事前の準備が可能であり、採点者に極力わかりやすい文章と表、フロー、模式図で記述できるよう工夫した方がよいと思われる。
 専門知識問題の出題傾向を物理・化学、生物、場の環境、地球環境問題の4つに区分して整理してみると、各項目がほぼ均等に出題されている。また、平成11年度は初めて、水産業と地球環境のかかわりや地球環境問題に果たしうる役割についての2問が出題されたことが特徴的である。


■環境保全計画の的
 パシフィックコンサルタンツ(株) 笠井 睦
◇的をはずしてはいけない
 あたり前だが、受験する部門と専門事項が的である。環境部門の環境保全計画で書くのに、内容が建設環境だったり、自然環境保全だったりしてはいけないのである。的をはずすと、内容がよくても門前払いになる。環境保全計画の場合、「計画」がキーワードである。間違ってもアセスメントの「手続き」を書かないようにしよう。
◇印象に残りやすい内容で書こう
 採点する人は大量の論文を見るであろう。だから「汚い」「つまらない」「わかりにくい」は論外である。小ぶりの題材でもいいから印象に残る文章を心がけよう。とくに事前に用意できる経験論文は、文章の区切りの位置や図表の配置にも気を配るべきだ。そしてシンプルで無駄のない文章で書こう。
◇経験に基づいた内容をプラスしよう
 午後の試験でも経験した内容をプラスして書くと説得力が増す。起承転結の「転」あたりで、この経験に基づいた内容を入れたい。「以前このような考え方を示した」、あるいは「今後このような考え方で取り組むつもりだ」といった形で、課題に対する解決策にリアリティが出ると差別化できる。
◇心意気を書こう
 技術士試験は、将来性を見る試験でもある。だから論文の最後には、「私は環境保全計画の技術者として、この問題に対し今後こういう姿勢で取り組んでいきます」という心意気を入れておきたい。実際、普段からそのように常に心がけていることが合格の秘訣かもしれない。


■自然環境保全の受験心得
 (株)環境指標生物 新里 達也
 自然環境に関する技術は、その効果が短期間のうちに現れにくいことから、技術の信憑性や確実性が、ときとして推測の域を出ないこともある。また、これはこの技術分野の宿命であるが、生物多様性保全のような公益性を十分に包含するにせよ、明確な経済効果は生みにくい側面を持っている。
 こうした問題点が、本科目の技術論文の構築を困難にしているのである。そこで、あくまでも私見であるが、おすすめするポイントは次の3つである。
◇話題性に富む物語
 読んで面白い物語性のある論文を作る。その時点や現時点の社会背景や技術環境を織り交ぜて、読みごたえのある論文を構成する。また、内容の話題性は重要である。できれば自然環境保全の技術現場で、いま論点となっているか、将来なりそうなものがよい。
◇技術とその経済効果
 技術の社会必要性はもちろんのこと、どのような経済効果(可能性も含めて)があるのか、些細なことでも明示しておく必要がある。保全技術に対する批判がたぶんに反経済性であることを考えれば、保全活動の経済収支や循環性が求められるのは必然である。
◇科学性(検証・再現できること)
 経験的に効果が認められたとしても、その技術が検証・再現できなくては意味がない。科学的な裏づけは、明確に表現すべきである。もし業務実施時点における根拠が脆弱ならば、現在の知見で理論擁護してもよい。


■質疑と回答の概要

水産にかかわる業務経験がないとの話であったが、水産水域環境の経験論文はどのような内容で書いたのか(担当講師に対して)。

河川における環境保全を記述した。環境技術は省庁の縦割り行政とは異なり、横断的なものであるから、必ずしも担当官庁の業務でなくてもよいと思う。


環境保全計画と自然環境保全の受験内容の違いは何か。とくに経験論文の記述内容について。

環境保全計画は保全の計画、自然環境保全では、保全技術について記述すべき。同一業務でも、この使い分けでどちらの科目の経験論文にもなる。


経験論文の概要と詳述の文章量の配分はいかにすべきか。

受験者によって異なると思うが、最初の1枚を概要に、残りを詳述にあてるのが一般的ではないか。2例あげて概要を記し、双方について詳述を求められる場合は、最初の1枚目で概要を記述し、残りを等分してそれぞれ詳述すればよい。

■冬の特別セミナー・レポート 平成12年2月26日
「文化財の環境保全とモニタリング」

■関口芭蕉庵と神田上水を歩く
 2月26日、江戸時代に開削された神田上水(神田川)に沿って、早稲田からお茶の水までを歩く観察会として、平成11年度冬の特別セミナーが開催された。都心に残された文化財と緑に触れ、江戸以来の歴史に思いを馳せるセミナーであった。本セミナーは全体にわたり新津誠氏(新日本気象海洋)に引率していただいた。
 早稲田大学大隈講堂前に集合後、神田川へ向かい、午前中は上水取水口付近の新江戸川公園、文京区関口の関口芭蕉庵と椿山荘の庭園を見学した。
 新江戸川公園では、突然現れたカワセミにあわてて双眼鏡を向ける一幕もあった。関口芭蕉庵は、松尾芭蕉が「古池や〜」と詠んだ場所である。椿山荘庭園では、樹齢500年のスダジイの巨木を観察した。この辺りの神田川は北側に位置する目白台地の下に沿って流れ、南側斜面に位置している庭園には、都心では残り少ないスダジイの群落が残存している。
 午後、後楽園の見学に先立ち、中林氏(日建設計)の説明を受けた。文化財保護法に基づき、ビル建築等の周辺整備が後楽園に影響を与えないように、環境調査、モニタリングを行っているとのことであった。引率者の下見では後楽園内でオシドリが確認されたというが、観察会当日は姿を見せてくれなかった。
 その後、復元された神田上水や、発掘された江戸上水など東京都水道歴史館の展示を見学した。風の強い肌寒い日だったが、都心に庭園として残る緑を訪ねる散策は楽しいものであった。
(レポーター:日本工営(株) 前田 敬)

■平成12年度第1回定例セミナー・レポート 平成12年5月19日
「川崎市における大気環境改善土壌浄化施設について」
 講師:川崎市環境局公害部自動車対策課 主査 早坂 孝夫
    /(株)フジタ技術センター環境研究部 主任研究員 金子 和己


 今回のセミナーは、事業者である川崎市とその事業の設計および施工を行った(株)フジタのダブルキャストによる講演である。
 川崎市は環境の浄化・改善に努める必要性があったことから、比較的通過交通量の激しい産業道路である池上新田を今回のモデルとして、大気環境改善の浄化施設を設置した。
 この浄化システムは、土壌微生物の代謝作用等の特性を生かし、NOxやSPM等を高性能で除去する、薬品を使用していない安全なシステムである。また、都心部の土地の有効利用を考慮すると高効率な除去性能を求められることから、土壌への送風速度のアップ、2層式構造等の技術的レベルアップが必要とされ、今回のモデル設置についてはこれらの技術が投入されている。
 今後はさらなる実績をもとに、フィルターとして使用した土壌の安全性の確保、ランニングコストを含む費用対効果の検証等を視野に入れた技術革新に期待したい。
(レポーター:(株)大林組 小西 秀一)

■平成12年度第1回定例セミナー・レポート 平成12年5月19日
「爬虫類の世界」
 講師:(財)自然環境研究センター 研究主幹 千石 正一

 ちょっと古い話であるが、二本足で走るエリマキトカゲが世の中の人気者になったことがある。千石先生はその火付け役になった人で、今回のセミナーでも、ユニークな解説で楽しませてくれた。
 セミナーでは世界中の爬虫類の生態写真を見せていただいた。写真はすべて先生が撮影したもので、その写真1枚1枚に、彼(女)らに対する愛情あふれる解説があった。なかでも先生が見つけた非常に珍しいヤモリの一種を発表したときのエピソードが印象的であった。たった1個体の発見で新種発表をすることの拙速さを他の研究者から指摘されたとき、「この珍しい種がもう一匹見つかる前に、この種が生息する森林が破壊されてしまう。だから、この森林の保護のために発表をするのだ」という先生の見解は、ナチュラリストとしての視点を垣間見るものであった。
 セミナーを聞けなかった人のために千石先生語録をいくつか紹介しよう。

1)
ヘビには後ろ足のあるものもいて、交尾のときに使用する。ヘビにとって蛇足は役に立っている。
2)
ヘビのオスのしっぽの付け根を押すと隠されている生殖器が出てくる。それで押す(オス)とわかるという。
3)
シマヘビの成体はタテ縞であるが、子供のうちはヨコ縞である。およそ子供というのはよこしまなものである。
4)
ヘビは二枚舌ではなく、先が二つに分かれているだけである。およそ二枚舌は人間の政治家だけ。
5)
トカゲの体温は活動時には38度くらいはある。人間につかまれるとヘビにとっては「なんだこの冷血動物は!」ということになる。

 爬虫類に対して、「目からウロコが取れた」セミナーであった。
(レポーター:(株)カナポリ 石黒浩之)




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