今回の講演では、公共事業に関する合意形成について、積極的に現場へ出かけられ、地元住民などとの対話の場に参加されている土木研究所の宇多氏のお話を聞くことができた。
1997年に改正された新河川法、99年に改正された新海岸法では、事業の実施にあたって地方公共団体や地域住民の意見を反映させることが理念として掲げられている。今回の講演では、新海岸法施行にあたっての新しい試みとして、住民と行政側との対話の場となる懇話会を設け、住民合意型海岸事業を進めている青森県木野部海岸の事例が紹介された。
講演のなかでは、懇話会での対話をとおして明らかになったこととして、行政側と住民側では考えている「あるべき海の姿」が異なっていたこと、同じテーブルにつき、同じ目線で、ときには全員で海岸を視察しながら話をすることで住民側の不信感を軽減できたこと、住民が考えている海岸整備について知ることができたことなどが話された。
われわれコンサルタントの仕事はこれまで、ともすれば構造物の設計、積算に関するコンサルティング中心で成り立っていた部分がある。しかし、宇多氏が言うように、今後は行政でもなく市民でもないという中間的な立場で、かつ専門的な技術者としての判断に立脚して議論を進めたり、あるいは調停役を務めることが求められるようになっていくだろう。
事業者側と地域住民との間で対話が求められるようになった背景には、市民レベルでの意識の向上が理由の一つにあげられよう。従来、意識の高い住民の存在は「仕事の進めにくさ」としてとらえられることも多かった。しかし今後は、よりよく仕事を進めるうえで、多くの人に「何が起こっているのか、起きようとしているのか」を知ってもらい、市民と行政側との間に良い意味での緊張関係を築くことが必要になっていくだろう。市民レベルの意識の向上にともない、われわれコンサルタントの側にも、それに対応した変化が求められていると強く感じた講演であった。
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